研究課題/領域番号 |
23701007
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
加藤 幸治 東北学院大学, 文学部, 准教授 (30551775)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 医学教材 / 工芸技術 / 在外日本資料 / 経穴銅人形 / 漢方医学 / 和歌山藩 / 西条藩 |
研究概要 |
初年度は、東京国立博物館所蔵の銅人形の調査、ドイツ・ハンブルク民族学博物館等における日本資料の現地調査、愛媛県西条市および県立博物館、図書館等での資料調査を実施した。これまで銅人形は、日本では漢方医学の資料という前提でしか調査されてこなかった。しかし、現存する銅人形の物質的なデータ、すなわち法量や部分ごとの素材の使用状況、書かれた文字、使用痕、修理痕、付け札等の付帯資料、破損ヵ所等について調査することで、この資料が現代まで伝世してきた過程の一端を知ることができると想定された。 今年度はまず東京国立博物館で当該資料が展示される機会に合わせて、実見調査を行った。その結果、写真ではわからなかった素材の使用や構造上の工夫、付帯資料の存在、転倒によると思われる破損とその修復痕を認めることができた。また、可動箇所や使用痕などから、本資料がどのような利用のされ方をしてきたかを考察するデータを得た。 次に、ドイツ・ハンブルク民族学館における調査では、博物館職員より日本資料の資料入手やその方針等について説明を受けたが、和歌山藩の銅人形の来歴について詳しく知ることができなかった。また、同様の資料のヨーロッパにおける存在についてベルリンで情報収集を行ったが、特筆すべき成果を得ることができなかった。 愛媛県西条市等での調査は、この資料が国立博物館に入る以前は伊予西条藩の持ち物であったことに着目し、現地での博覧会出品資料や古物調査等の文献を調査した。しかし、和歌山藩から西条藩に移入される経緯についても、その後その資料がどのような扱いを受けたかも、詳しく知ることができる資料を発見できなかった。 一方、和歌山藩の藩政資料等から、銅人形を製作してきた家である飯村玄斎家の動向についてつかむことができている。今後は、藩の医学教育と教材としての銅人形を製作するための知識と技術について、更に文献調査を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、江戸時代に漢方医学の粋を集めて製作された銅人形に応用された当時の工芸技術とその製作者、製作の背景について研究することと、銅人形製作に積極的に関わった和歌山藩と、主導的役割を果たした飯村玄斎の分析によって、銅人形製作の医学史的・工芸史的意義を明らかにすることである。 前者の調査は、銅人形の実物資料が非常に繊細に製作されており、且つ安定していないため、調査先の博物館で直に接触しての調査や、姿勢を動かしての詳細な検分が不可能な場合が多いことから、困難さがある。観察でそれを補おうと努力しているが、限界があるのが実情である。 後者の調査では、和歌山藩の動向は明らかになりつつあり、飯村玄斎の活動の実態も少しつ見えてきた。しかし、銅人形が文献調査上は六体製作されていることが窺われるが、そうした人形が、どのように譲渡されたり移動されたりするのかについては未だ明らかにできていない。 本研究の二つの目的は、実物資料の特質や史料に記される情報の傾向などによって、明らかにしうる部分とそうでない部分があることが明確になってきた。次年度はそれを踏まえて、調査を進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
二年目は、未調査の資料である東京大学所蔵の銅人形の調査と、和歌山県立文書館や県立博物館等での調査を予定している。内容は、(1)詳細な観察による調査記録(素材・製作方法・書き込み・使用痕等)、(2)計測、(3)写真撮影、(4)図の作成、である。 一年目に調査した資料を含め、調査したすべての銅人形のデータを提示することが第一の目標となる。 また、文献調査で明らかになったことと、実物資料との関係についても、分析していく必要がある。これは作図するなど具体的に解説するための作業も必要となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の経費は、まず旅費として和歌山、東京におけるそれぞれ二泊三日の調査を予定している。また、データ整理と報告書作成のためのアルバイト30日を予定している。 また、報告書の印刷経費と作図等の委託経費、作成した報告書の発送経費が必要である。報告書は図録形式で作成する。図録は、銅人形の写真や古文書の解説、所蔵されている博物館等の施設の紹介など、ビジュアルで分かりやすいものを作成する。対象は小学校高学年であり、全国の図書館のみならず、和歌山県内の小学校の公立図書館および学校図書館に配布し、地域学習の資源としても活用してもらうことを目的とする。
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