量子力学における非局所性が、物理量の非可換性と密接に関係していることはよく知られている。例えば、アインシュタイン・ポドルスキー・ローゼンの議論では、位置に対応する作用素と、運動量に対応する作用素が非可換であることが重要な役割を果たしている。 そこで、本年度は物理量の非可換性を調べた。注目したのは、複製不可能定理とよばれる結果である。この定理によれば、ある物理系において任意の状態を複製できるということと、その系の任意の物理量が可換であることは同値である。本年度は、この定理が不完全な複製においても成立することを示した。すなわち、ある物理系において任意の状態を不完全に複製できるということと、その系の任意の物理量が可換であることは同値である。したがって、ある系に非可換な物理量が含まれるとき、状態は不完全であっても複製できない。 以上述べてきたように、本年度は、複製の観点から物理量の非可換性の操作的な意味を明らかにした。
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