研究課題/領域番号 |
23701010
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
飯田 豊 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (90461285)
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キーワード | つながり / ソーシャルメディア / 大衆化 / 個人化 / 東日本大震災 / アマチュア無線 / 無線技術 |
研究概要 |
本研究では、ソーシャルメディアの隆盛と相まって用いられる「つながり」という言葉の含意に着目し、戦後日本社会における〈大衆化志向〉と〈個人化志向〉の間で、電気技術の発展とともに実現が期待されてきた「つながり」とはいかなるものだったのか、メディア史の視座から考察することを目的としている。当該年度の成果は次のとおりである。 第一に、戦後日本社会における〈大衆化志向〉と〈個人化志向〉の変容を考察するうえで、1970年の大阪万博が重要な転換点のひとつであると考え、電気技術の発展の中で、新しいメディアにいかなる機能が欲望されるようになっていったのかを、万博の技術表象の分析を通じて明らかにした。そのため資料分析の対象を、当初から予定していた技術雑誌のみならず、万博の技術表象に言及した美術雑誌にまで広げた。そのさい、60年代末におけるマクルーハンの同時代的理解を、理論的な補助線とした。その知見の一部は、「マクルーハン、環境芸術、大阪万博 ―60年代日本の美術評論におけるマクルーハン受容」『立命館産業社会論集』(48巻4号、2013年)にまとめた。 第二に、新しい電気技術をとりまく生産者と消費者のあいだの相互作用、専門家と非専門家のコミュニケーションを、「アマチュア」や「ファン」、「マニア」や「ハッカー」といった人びとが仲立ちし、時には発展の仕方を主体的に方向づけてきたことに着目した。こうした先端ユーザのあいだで、マスメディアともパーソナルメディアとも機能的に異なる、「つながり」の欲望がいかに育まれていったのかを考察した。 第三に、前年度に引き続いて、東日本大震災の発生とその後の経過を踏まえ、本研究から得られた知見を活かした考察をおこなった。その成果の一部は、「「拡張現実の時代」におけるプロシューマー論の射程」『10+1 web site』(INAX出版、2013年)にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、(1)「つながり」という概念をめぐる社会学的思考の論点整理に加えて、(2)無線技術をめぐる従来のメディア史の蓄積を「つながり」の欲望という視座から編み直す、という達成目標をあらかじめ掲げていた。(1)については、書籍を中心に先行研究の収集を進め、批判的検討を進めることができた。(2)については、本務校に所蔵されている『無線と実験(MJ)』などの技術雑誌の閲覧と複写に加えて、国立国会図書館や東京都立中央図書館に出張したうえで、『CQ』や『トランジスタ技術』などの技術雑誌の閲覧と複写をおこなった。平成23年度に前倒しして取り組むことができていたこともあり、当初の計画以上に進展させることができた。これらを分析した研究成果は、次年度に公開する予定である。 また、当初の研究計画には含んでいなかったが、戦後における〈大衆化志向〉と〈個人化志向〉の変容を考察するうえで、1970年の大阪万博が重要なケーススタディになると考え、資料分析の対象を、当初から予定していた技術雑誌のみならず、万博の技術表象に言及した美術雑誌にまで広げた。その成果の一部は既に公開している。 以上のことがらを総合して、本研究は現在、おおむね順調に進展していると自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
『CQ』や『トランジスタ技術』、『無線と実験(MJ)』といった技術雑誌の収集と分析を継続するとともに、これまでに得られた知見を統合し、無線技術をめぐる従来のメディア史の蓄積を「つながり」の欲望という視座から編み直す。具体的には、国立国会図書館や東京都立中央図書館における文献調査を、2013年度中に3~4回実施する。 その一方、ソーシャルメディアをとりまく現在的状況を注視し、メディアが果たす機能のひとつとして「つながり」が急速に前景化している経過を観察し、今後のメディア研究の可能性と課題を展望する。 平成25年度は、本研究の完成年度に当たるため、本研究の成果を総括した論文の刊行、研究会報告を積極的に実施する。例として、現代風俗研究会での研究報告(5月18日、於:関東学院大学 関内メディアセンター)と、その研究誌『現代風俗学研究』への執筆が確定している。 また、平成25年度、本研究の成果を総括した図書の刊行を予定している。具体的には、(1)飯田豊編著『メディア技術史』(北樹出版)、(2)飯田豊『アーリー・テレビジョンズ 1928-1853(仮)』(青弓社)の出版が確定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用分については、申請書に記載のとおり、主として、文献調査にもとづく研究の遂行のために使用する。具体的には、書籍の購入、東京都内の図書館(国立国会図書館、東京都立中央図書館など)を訪問する旅費、文献の複写費として執行する。パソコン等、高額な物品の購入は予定していない。 その他、研究会報告をおこなうための旅費、論文作成にともなう図版の作成補助、資料整理補助の人件費として、研究費を執行する予定である。
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