研究課題/領域番号 |
23701013
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
渋谷 綾子 広島大学, 総合博物館, 学芸職員 (80593657)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 残存デンプン粒分析 / 縄文時代 / 石器 / 土器付着植物遺体 / 植物利用 / 人との関係 |
研究概要 |
本研究では,縄文時代の遺跡から出土した石器や土器の付着物に含まれる残存デンプン粒を分析することによって,縄文時代の植物利用の実態を明らかにすることである。具体的には,植物の加工具とされる石皿や磨石類,植物を煮炊きした痕跡である土器着植物遺体について残存デンプン粒の検出を試み,石器や土器の加工対象となった植物を検討する。調査の主な対象は,鹿児島県指宿市水迫遺跡(縄文時代早期)と東京都東村山市下宅部遺跡(縄文時代中~晩期)である。平成23年度は,広島大学総合博物館に分析機器(システム生物顕微鏡,偏光アクセサリ,顕微鏡用カメラ)を導入し実験設備等を整えて,8月から分析作業を開始した。機器類の導入までの期間は,平成22年度に事前調査を実施した鹿児島県水迫遺跡と東京都下宅部遺跡の資料から分析用試料を採取し,分析作業の準備を行った。水迫遺跡の試料は事前調査の時点で採取していたため,下宅部遺跡の資料からの分析用試料の採取を中心に行った。なお,水迫遺跡では石皿・磨石類,下宅部遺跡では土器付着植物遺体を分析の主な対象とした。これらの試料調査,分析試料の採取,分析結果の評価については,国立歴史民俗博物館の工藤雄一郎助教と弘前大学の上條信彦准教授から協力を得て実施した。水迫遺跡の研究はほぼ完了し,成果は投稿論文として学術雑誌『植生史研究』第21巻2号(2012年8月発行)に掲載され,他の研究成果とあわせて国際東アジア考古学会世界大会(2012年6月)でも公表予定である。下宅部遺跡の調査は継続中だが,一部の結果を国際第四紀学連合(2011年7月)で公表しており,平成23年度に得られた成果とあわせて第13回国際花粉学会議・第9回国際古植物学会議(2012年8月)で発表する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況をみると,資料調査,分析用試料の採取はすべて滞りなく順調に進んでいる。特に水迫遺跡の調査はほぼ完了し,その研究成果は学術雑誌『植生史研究』第21巻2号(8月発行)に投稿論文として掲載予定である。下宅部遺跡の調査については,土器付着植物遺体からの分析用試料採取は完了しており,顕微鏡観察等の分析を進めるのみである。石皿や磨石類の分析については,調査予定の資料の一部についてすでに試料採取を行っており,これらの結果をもとに,平成24年度も調査を継続する予定である。一方,残存デンプン粒の植物同定に必要な現生植物を用いた参照標本データベースについては,植物標本の収集等に時間を費やしており,データベースの構築は予定よりもやや遅れがちである。そのため,本研究で検出した残存デンプン粒の植物種を特定する作業については,平成24年度と平成25年度にも継続して実施する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた結果をもとにして,平成24年度も継続的に残存デンプン粒分析の研究事例の蓄積を目指す。水迫遺跡の調査がすでに完了しているため,平成24年度は東京都下宅部遺跡から出土した石皿・磨石類の分析調査を主体的に行う。さらに,現在遅れがちになっている現生植物を用いた参照デンプン粒標本の作製,データベースの構築についても,研究協力者との連携で分析調査と同時に進めていく。平成24年度に行う研究成果の公表については,平成23年度の分析結果,特に水迫遺跡の研究成果と下宅部遺跡の土器付着植物遺体の分析結果を中心として,日本植生史学会,国際東アジア考古学会世界大会,国際花粉学会議・国際古植物学会議などの国内外の学会で研究発表を行い,研究成果を国内外に広く発信する。平成25年度については,前半期と後半期に分けて研究を遂行する。前半期は下宅部遺跡について追加の残存デンプン粒分析を行う。同時に,国立歴史民俗博物館の工藤助教や弘前大学の上條准教授からの助言にもとづき,平成23~24年度の分析結果に対し,炭素14年代測定や炭素・窒素安定同位体分析などの他の分析結果との比較・検討を行う。これらの比較分析は,検出した残存デンプン粒の植物種を特定する作業と併せて行い,縄文時代における植物の種類別の利用方法を検証するものである。後半期は,平成23~25年度前半期までの研究成果を統括する。日本文化財科学会や日本植生史学会など国内の学会,アメリカ考古学会などの国際学会で研究成果を発表するほか,国内外の学術雑誌への論文投稿,広島大学総合博物館の出版物等での研究成果の公表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費では,個別の実験消耗品(白スライドグラス,ピペットチップ,精製水等)の購入が必要となるほかは,備品・消耗品費に関しては平成23年度に使用した額の4分の1程度に収まり,大幅に減る予定である。旅費については,下宅部遺跡の資料調査・分析用試料の採取に関する調査旅費とともに,平成23年度の研究成果を公表するため,日本植生史学会,国際東アジア考古学会世界大会,国際花粉学会議・国際古植物学会議などの学会参加に用いる国内旅費が前年度よりも多く必要となる。さらに,平成23年度は支出のなかった謝金について,実験補助や資料整理等でアルバイトを雇う予定であり,この項目も前年度よりも増える見込みである。ただし,平成23年度に顕微鏡の導入とともに実験設備が整い,広島大学で分析が可能となったため,研究協力者の機器類を借りるための施設使用費を含む「その他」の経費が大幅に減る予定である。そのため,これらの費用を国内旅費に振り分け,より多くの分析を実施することが可能であり,全体として平成24年度の研究費の支給額内に収まる見込みである。
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