本研究は,世界有数の水位変動を有する熱帯湖沼トンレサップ湖およびその支流であるシェムリアプ川を研究対象とした。シェムリアプ川流域内では,アンコール遺跡がカンボジア随一の観光資源であるとともに世界的な文化財の存在の中に人と文化遺産が調和して生活を営んでいるのに対し,急激な観光産業の発展による自然環境の破壊に進行していることが予てより指摘されている。また,シェムリアプ川がトンレサップ湖に流入する河口接続域では,トンレサップ湖の特徴でもある大規模な浸水林が形成されている。同地域では,進行しつつある地球温暖化問題に伴う生態系を水域の変遷帯において評価する必要性がある。したがって,同地域における未来の環境予測を念頭に,現在の水環境を解明することを第一の目的とした。 平成25年度の現地調査では,浸水林内の水の挙動のモニタリングを実施し,湖沼の水収支・水循環の経年的・短期的な変化を捉え,特に,溶存酸素の挙動について注目した。また,現地調査により得られる流量・湖水位・濁度等の観測データをあくまでも最重要の基礎資料と位置づけ,持ち帰る検水については,溶存成分(主要イオン・栄養塩類)の分析を実施した。 本結果は,雨季・乾季の比較で,一部の特異点を除いて浸水林内の水質成分は,ほぼ一定であると結論づけられた。これは,メコン川の水が大量に流入するトンレサップ湖の水質変動は異なる変化を示した。しかし,溶存酸素の変動は異なり,浸水林の溶存酸素は,特に,雨季(すなわち湖の高水位期およびシェムリアプ川の大流量期)には,水の動きが微弱で河床で酸素が消費される環境であることを解明し,学会発表・論文投稿を通じて,成果を発表した。
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