研究課題
23年度の研究成果として,日本の陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の光学センサ(PRISMとAVNIR-2)によって2007~2010年に撮影された58枚の高分解能衛星画像を用いて,天山山脈の1034の氷河湖(0.0001km2以上)のポリゴンデータを作成した.現在,氷河湖台帳の完成に向けて,氷河湖ID,地図,面積,体積,拡大履歴などの情報を追加している.氷河湖の分布では,天山山脈で最も氷河縮小が著しい西天山地域ではなく,北天山地域のイリ・クンゴイ地域で多くの氷河湖を確認した.イリ・クンゴイ地域を対象に,1971年と2007年の氷河湖数を計測したところ,1971年から継続して存在する氷河湖は3割しかなく,現在拡大する氷河湖の多くは1980年代以降に出現したことが明らかになった.この地域では,1960~1970年代に氷河湖決壊洪水が多数生じたが,これら決壊した氷河湖は一つ前の世代に形成されたものであることがわかった. 現地調査では,テスケイ・アラトー山脈の氷河湖を中心に10以上の氷河湖で湖盆図調査をおこなった.これら氷河湖の水深はすべて30m以内であり,ヒマラヤ山脈東部の氷河湖の水深100mほどの大規模なものとは異なる.氷河湖の体積と面積の近似式からテスケイ・アラトー山脈北面の氷河湖の体積を求めたところ,50万m3以上の水量を持つ氷河湖は存在しなかった.次に,この関係式から推定した氷河湖の体積データを用いて洪水モデルによる洪水浸水範囲の抽出をおこなう.洪水モデルの検証作業として,すでに洪水範囲がわかっている2008年7月に決壊したズンダン西氷河湖を対象に,FLO-2Dの流水二次元モデルを用いて洪水範囲を推定した.氷河湖底からの出水で用いられるハイドログラフの改良は今後の課題であるが,1/25000地形図DEMを用いて推定された結果は,2008年の洪水範囲を再現できた.
3: やや遅れている
氷河湖台帳のデータ入力は現在進行中である.洪水解析モデルで用いる数値標高モデルの検証に時間がかかったが,地形図から作成した数値標高モデルを用いることで洪水範囲をうまく抽出できる目処がついた.
テスケイ・アラトー山脈を対象に,氷河湖の体積データと地形図から作成した数値標高モデルを使用して広範囲に洪水範囲を復元する.そして,氷河湖災害と下流域の土地利用との関係を明らかにする.この地域では,氷河湖と居住地の距離が短いにもかかわらず,住民は氷河湖の存在を把握していない.そこで,地域住民の災害対応力の向上に貢献するため,氷河湖決壊洪水に関する知識向上のためのワークショップや情報の公開を積極的に進めていく.
24年度は,8月の現地調査の旅費と調査機器の購入,2月のオスロ大学での研究打ち合わせ,氷河台帳の印刷代,海外での研究発表,論文投稿料などに使用予定である.
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
ヒマラヤ学誌
巻: 13 ページ: 166-179
Global Environmental Research
巻: 印刷中 ページ: 印刷中