研究概要 |
イノシトールリン脂質(PIPs)はイノシトール環の 3, 4, 5 位水酸基が可逆的なリン酸化を受ける結果、生体膜に生ずる 8 種類のリン脂質群の総称である。多様な細胞外シグナル分子による細胞生理応答惹起を仲介する細胞内シグナル分子として、PIPs は重要な役割を果たす。その代謝異常は様々な疾患を引き起こし、その中にはp53と並び、がん抑制遺伝子としてよく知られた代謝酵素としてホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸を代謝するPTENが挙げられる。近年、新たながん抑制遺伝子候補としてホスファチジルイノシトール3,4-二リン酸を代謝する酵素であるINPP4Bが注目されつつある。INPP4Bの生理的役割を調べるために、ノックアウトマウスを作製しその解析を行った。その結果、予想に反して、このマウスは正常に発育し、がんの発症は見られず、その生存曲線も野生型と変わらないものであった。INPP4BとPTENが代謝するそれぞれのリン脂質はともに、癌原遺伝子として知られるAktの活性化を引き起こす。そこで、両者に関係があるのではないかと考え、INPP4BとPTENの二重欠損マウスを作製したところ、甲状腺において有意にがんの発症が促進されることが明らかとなった。さらに、この甲状腺癌は肺への転移を高頻度で引き起こすことを見出した。この発症の原因を調べるために、シグナル伝達の検討を行ったところ、二重欠損マウス由来の甲状腺においてPI3K-Aktシグナル経路の明らかな亢進を認めた。
|