研究課題/領域番号 |
23701038
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
岡本 健吾 高崎健康福祉大学, 薬学部, 講師 (60437754)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / ヒストン修飾 / rRNA転写 / jmjC / PHF2 |
研究概要 |
リボソームRNA(rRNA)転写は細胞外シグナルに応答して緻密に制御されており、細胞の成長・増殖の制御に重要な役割を果たしている。リボソーム合成の第1段階はrRNA転写であり、これがリボソーム合成量決定の大きな要因となっている。rRNA転写量の調節は、細胞が正常に増殖するために必須である。また、rRNA転写量の異常は発癌に強く関係しており、癌化した細胞では異常なrRNA合成がみられ、無秩序な増殖が可能となる。 ヒストンのメチル化修飾はクロマチン状態を決定する主要なヒストン修飾の一つである。メチル化修飾の役割や修飾調節のネットワークは複雑であり、未知の部分が多々ある。近年、JmjCドメインを有するタンパク質がヒストン脱メチル化活性を持つことが明らかになり、ヒストンの脱メチル化による転写調節機構の解明が進んでいる。 JmjCドメインタンパクであるPHF2は、核小体に強く局在していることから、rRNA転写の制御因子として働くことが期待される。そこで本研究では、細胞株を用いてPHF2のRNAi干渉を行い、PHF2発現抑制による細胞への影響を解析した。その結果、PHF2ノックダウン細胞ではrRNA転写量の低下がみられ、細胞増殖能が著しく低下することが明らかになった。また、PHF2発現抑制による細胞増殖の低下は、rRNA転写量の減少のみによる結果だけではなく、他の遺伝子群の発現量変化による複合的な影響であることが考えられたので、PHF2発現抑制によって発現量が変化する遺伝子群の網羅的な同定をめざし、マイクロアレイ解析を行った。その結果、約2100種類の遺伝子群の発現に変化が見られたことから、PHF2は様々な因子の発現調節に関与している可能性が示唆された。以上の結果から、PHF2はrRNA転写の正の制御因子であり、細胞増殖に必須な因子であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本来の研究計画では平成24年度に行う予定であったが、順序を変更して今年度は分子生物学的アプローチによってPHF2の分子実態の解明につとめた。それらを踏まえた上で実施計画と実施概要とを照らし合わせると、おおむね予定通りに進行できたと考える。 RNAi干渉の結果より、PHF2がrRNA転写を正に制御しており、細胞増殖に必須であることが明らかになった。PHF2のrRNA遺伝子上での挙動を明らかにすべく、ヒストンメチル化修飾の変遷についての解析を行ったのだが、その詳細については明らかにすることができなかったので、引き続き研究を行いPHF2のクロマチン上での挙動について明らかにして行く。 また、マイクロアレイ解析により、PHF2によって転写が調節される可能性のある遺伝子群を同定することができた。これらの候補因子に関しては次年度以降も引き続き詳細な解析を行ない、PHF2の下流因子の同定を目指す。 さらにPHF2の過剰発現細胞株を樹立し、それらから回収したPHF2タンパクを用いてマススペクトロメトリーによるPHF2相互作用タンパクの単離を試みたが、候補因子の同定には至らなかった。実験条件を変更して引き続き解析を行う。次年度にはこれらの結果をまとめて、国際学術誌に登校する予定であり、研究全体の計画・目的は達成されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に計画通りに行うが、実験結果の良し悪しに応じて柔軟に変更する。PHF2の分子実体を明らかにすることが本研究計画の主題であるので、今年度に引き続き解析を続ける。PHF2はヒストン脱メチル化に必須なjmjCドメインやヒストンタンパクとの結合に必要なPHDドメインなどを有する。PHF2はヒストン修飾に応答して選択的にヒストンタンパクに結合することが考えられる。現在、PHF2の機能に重要であると考えられるドメインの欠失した変異体を作製中である。それらの樹立に成功次第、PHF2変異体の過剰発現によるrRNA転写への影響およびヒストン修飾の変化を調べ、PHF2のクロマチン上での機能を明らかにする。 さらに研究計画の順序変更に伴い、平成23年度の研究計画内にあるが未解析である、肝癌細胞におけるPHF2発現量の変化の測定についての検証を行う。予備的実験ではステージの進行した肝癌由来培養細胞ではPHF2の発現が低下することを示したので、PHF2発現の調節によって癌細胞のステージ進行が調節できるかを調べる。 これらの解析により、PHF2によるrRNA転写調節の分子機構とヒストン修飾と細胞の癌かとの関連を明らかにできる。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度の予算の使用に関しては研究計画の変更もあり、若干の計画変更を行った。培養細胞を用いた実験を主に行ったため、細胞培養用のシャーレや遺伝子導入に必要な試薬などの消耗品の購入に充てることで効率的に研究を推進できた。 発生した繰越金に関しては、初年度に行う予定であった実験計画の変更に伴うものである。次年度以降に行う研究計画では基本的に次年度の物品費に加算して使用する計画である。 本研究計画では、様々な細胞株を用いて分子生物学的手法で研究を遂行するために、合成siRNAや合成オリゴDNA、常備試薬や実験キットなどの試薬類、細胞培養関連製品など、消耗品の購入を重点的におこなう。しかし機器故障などの研究遂行に困難が生じた場合には、柔軟に対応し手使用計画を変更する可能性もある。
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