研究課題
代表的な生活習慣病である肥満は癌の発症率を増加させることから、肥満が引き起こす癌発生のメカニズムを解明することは非常に重要である。私達は最近、肥満と同様、癌抑制遺伝子p53の不活性化が発癌ストレスのセンサーとして知られる癌抑制遺伝子p16の発現を脂肪組織において誘導することを見出している。そこで、本課題では肥満によって生じる発癌ストレスの実態を解明することを目的として、肥満モデルマウスやp53遺伝子欠損マウスを用いて脂肪組織特異的にp16を誘導するメカニズムの解析を行っている。脂肪組織は脂肪細胞、脂肪前駆細胞、繊維芽細胞、マクロファージやリンパ球など様々な細胞から構成されることが知られている。本年度は、肥満マウスとp53遺伝子欠損マウスの脂肪組織においてp16が上昇する細胞を特定することを試みた。フローサイトメトリーを用いて様々な細胞集団に分画し、各細胞集団におけるp16レベルの解析を行った結果、p53遺伝子欠損マウスにおいてp16の発現は脂肪組織の脂肪前駆細胞において著しく高くなっていることを見出した。また、野生型の肥満マウスについて同様の解析を行った結果、p53遺伝子欠損マウスと比べて上昇レベルは低いものの、脂肪前駆細胞においてp16レベルが高くなっていた。以上の結果から、肥満やp53遺伝子欠損は脂肪組織の脂肪前駆細胞において発癌ストレスを発生させることが示唆される。また、私達の最近の研究から、p53の不活性化による発癌ストレスはDNAダメージを引き起こし、p16遺伝子プロモーター周囲のヒストン修飾状態が変化することでp16が誘導されるようになることが明らかとなっている。そこで、脂肪前駆細胞においてp16が誘導されるメカニズムを明らかにするため、p16遺伝子プロモーター周囲のヒストン修飾状態(H3K9me2, H3K27me3)についての解析に着手した。
2: おおむね順調に進展している
肥満によって生じる発癌ストレスの実態を解明することを目的として、肥満モデルマウスとp53遺伝子欠損マウスにおいて脂肪組織特異的にp16遺伝子発現を誘導するメカニズムを明らかにしようとしている。本年度、フローサイトメトリーを用いた解析により、肥満マウスとp53遺伝子欠損マウスの脂肪組織においてp16が上昇する細胞を特定することが出来た。また現在、その細胞においてp16遺伝子発現を誘導するメカニズムについての解析を開始した。以上の理由から、研究目的・研究実施計画に沿った研究を行い、その成果が得られているため、研究は順調に進展していると考えられる。
次年度では、これまでに得た研究成果に基づき、肥満やp53の不活性化による発癌ストレスが脂肪組織の脂肪前駆細胞にp16遺伝子発現を誘導するメカニズムの解明に取り組む。また、最近の研究から、肥満すると動脈硬化発生の一因である可能性も指摘されている酸化ストレスが増加することが報告されている。そこで、肥満による酸化ストレスの増加が脂肪組織前駆細胞で発癌ストレスを引き起こしている可能性を探るため、核酸や脂質の酸化ストレスマーカーのレベルについて検討を行う。
本年度、学会に参加する予定であったが、実験が忙しく都合がつかなかったため、旅費を必要としなかった。このため、当該年度の未使用分が生じた。そこで、この未使用分を次年度請求費用と合わせ、次年度の物品費として使用し、研究を効率よく実施する。
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Molecular Cell
巻: 45(1) ページ: 123-131
Inflammation and Regeneration
巻: 32 ページ: 32-38
10.2492/inflammregen.32.032
http://www.ncgg.go.jp/department/dma/biochemistry_ky_.html