本年度は、高悪性度の乳癌細胞株におけるタンパク質キナーゼNIK活性化機構の解析と乳癌幹細胞維持に関わるNFκB標的遺伝子の特定を進めた。前者の解析においては、プロテオーム解析によりNIKの活性化を促進する新規タンパク質としてユビキチン化修飾酵素A20を同定した。A20はNIK活性化乳癌細胞株において高く発現しており、RNAiノックダウンにて発現を抑制するとNIK恒常的活性化は抑制され、さらにNFκBの活性化も低下した。ノックダウン細胞では細胞増殖が低下し、さらに抗癌剤耐性も下がっていた。A20遺伝子を欠損するマウス繊維芽細胞を用いてNIK活性化を導くサイトカイン刺激を行うと、NIKの活性化が顕著に減弱した。従って、このタンパク質は乳癌細胞のみならず、正常細胞においてもNIK活性化を促進する重要因子であると考えられた。A20は脱ユビキチン化活性とユビキチンリガーゼ活性の異なる酵素活性を有するが、NIKの活性化にはその酵素活性は必要ないことも明らかにした。一方で、乳癌幹細胞維持に関わるNFκB標的遺伝子としてNOTCHリガンドの一つであるJAG1を同定した。乳癌細胞のNFκB を遺伝子導入やサイトカイン刺激により上昇させると乳癌幹細胞の割合が増加することを見いだしていたが、JAG1の発現抑制によりこの増加は顕著に抑制された。また、NOTCH阻害薬の添加によっても同様に抑制された。乳癌組織の構成細胞である繊維芽細胞やマクロファージにサイトカイン刺激を加えてNFκBを活性化させると、乳癌細胞と同様にJAG1発現が増加した。このことから、乳癌細胞やそれを取り巻く正常細胞群のNFκBが活性化されると、JAG1の発現が増加して乳癌幹細胞の増加に寄与すると考えられた。本研究により、NIK活性化を促進する新規タンパク質やJAG1が乳癌の新規治療標的になる可能性が見いだされた。
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