がん細胞の浸潤に関する研究では、上皮―間葉転換(Epithelial-Methenchymal Transition: EMT)を経た単一細胞へと変化することが浸潤性を獲得するうえで重要であると着目されてきた。しかし、多くのがんの浸潤過程において細胞が集団を形成して移動する現象(集団的移動)が観察されており、がんの浸潤・転移において非常に大きな役割を担うと考えられている。これらの細胞集団では先端部のleading cell(LC)とそれに続くfollowing cell(FC)の間に細胞特性の違いがみられ、このような異質性(heterogeneity)が集団的移動に必要とされているが、その違いを生み出す分子機序については不明である。 本研究で我々は、がん細胞集団のLCにおいてFCと比較してintegrin β1の発現が上昇していることを見出し、それが転写調節因子であるRFPとMRTF-Bの協調的な機能によって制御されていることを見出した。FCが周囲を他の細胞との接着に囲われているのに対し、LCの先導端にでは細胞間接着が消失しており、それによってRhoの活性化が惹起され、活性化されたRhoによってRFP/MRTF-B複合体形成が促進することを明らかにした。この複合体がintegrin β1のmRNAを標的とするmicroRNA-124(miR-124)のプロモーター上で形成されることでmiR-124の発現を抑制し、LC特異的なintegrin β1の発現上昇を引き起こすことが判明した。これらの結果から、がん細胞集団内においてHeterogeneityがいかに確立されるのか、その分子機構のモデルを提唱した。
|