研究概要 |
H23年度は、上皮細胞増殖因子EGF-Ras-ERK MAPキナーゼ情報伝達系の数理モデル化とコンピューターシミュレーションによる数値解析を行った。所属研究室でこれまでに作成されていたモデル(Fujioka, JBC, 2006)に、さらに研究代表者が昨年度までに報告した以下の点を加えることで、改良を施した。(1)ERKのプロセッシブリン酸化モデル(Aoki, PNAS, 2011)を採用し、さらに30個以上の実測パラメーターを導入した。(2)Ras-Rafの足場タンパク質Shoc2の反応促進モデル(Matsunaga-Udagawa, JBC, 2010)を採用し、実測パラメーターを導入した。(3)ERK-Sos1の多重リン酸化による負のフィードバック制御機構モデル(Kamioka, JBC, 2010)を採用し、そこで報告した実測パラメーターを導入した。これらの3点の改良を基に、数値シミュレーションを行った結果、これまでHeLa細胞で得られていたEGFRやRas, ERKのリン酸化反応のダイナミクスがより定量的にシミュレートできたが、まだ実験結果との差異が少なからず残っていることが分かった。これは、モデルに含まれていない隠れたフィードバックや他の制御因子があることを示唆していた。そこで、これらを明らかにするために、shRNAによるRas-ERK情報伝達系に関与する分子の網羅的なノックダウンを計画し、shRNAのライブラリーの入手と性能確認まで行った。また、Ras, ERK, EGFR, S6K, PKA, JNKの分子活性をFRETイメージングにより可視化する安定細胞株を樹立した。さらに、FRETイメージングのデータを効率的に解析できるように、画像解析プログラムを作成した。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、Ras, ERK, EGFR, S6K, PKA, JNKの分子活性をFRETイメージングにより可視化する安定細胞株を樹立できたので、shRNAによりRas-ERK情報伝達系に関与する分子を網羅的にノックダウンし、Ras, ERK, EGFR, S6K, PKA, JNKの分子活性にどのような変化が起こるかを画像解析により定量解析する。
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