研究課題/領域番号 |
23701052
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
青木 一洋 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80511427)
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キーワード | FRET / ERK / Akt / シミュレーション / フィードバック |
研究概要 |
昨年度までに解析した上皮細胞増殖因子EGF-Ras-ERK MAPキナーゼ情報伝達系の数理モデルとコンピューターシミュレーション結果をもとに、shRNAや阻害薬による摂動を行い、モデルに含まれていない隠れたフィードバックや他の制御因子を同定することを試み た。EGFR, Ras, ERK, S6K, PKA, JNKのFRETバイオセンサーを安定的に発現するHeLa細胞株を樹立し、EGF刺激と阻害薬を組み合わせたタイムラプスイメージングを行った。その結果、いくつかのフィードバック反応やクロストークが観察された。一例をあげると、ERK からEGFRへの負のフィードバック、PI3KからERKへの正のフィードバック、ERKからTSCへの負のクロストーク、RhebからRafへの負のクロストークなどである。これらの複雑な回路をさらにshRNA実験により検証した。 H25年度は、これらのフィードバックと分子標的薬の内因的抵抗性(intrinsic resistance)との関連について解析を行った。Cancer Cell Line Encyclopediaから、KRasまたばBRaf遺伝子に変異が入った細胞株の分子標的薬に対する濃度依存性を取得し、本研究のシミュレーション上でRasまたはBRafに変異を入れたときの分子標的薬の応答を解析した。その結果、ERKのリン酸化量とAktのリン酸化量を足すことで、分子標的薬の応答を予測できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究結果により得られた数理モデル、シミュレーション結果から、MEK阻害薬、及びPI3K阻害薬等の分子標的薬に対する癌細胞の応答性を予測することができた。これまで、KRas変異癌細胞はBRaf変異癌細胞に比べてMEK阻害薬に対する感受性が低く、臨床的にも大きな問題であったが、この分子機構は明らかではなかった。本研究結果から、Ras-ERK経路とPI3K-Akt-mTOR経路のクロストーク、フィードバックの強弱によって分子標的薬に対する感受性の違いがうまく説明できることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年の結果から、数理モデルとシミュレーションによりBRaf変異癌細胞とKRas変異癌細胞の分子標的薬の感受性の違いが予測できることが分かった。平成25年は主にこれらの解析を数理モデルやコンピューターシミュレーションにより行ってきたが、平成26年度は、この結果をさらに実験的に検証し、より強固なモデルとして報告するための実験を行う予定である。培養細胞を用いた実験とマウスを用いた担癌実験により検証を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究当初により得られたイメージングデータをもとに、シグナル伝達系の数理モデル、シミュレーションを行った結果、MEK阻害薬、及びPI3K阻害薬等の分子標的薬に対する癌細胞の応答性を予測することができた。この数理モデル化とシミュレーションに時間がかかったため、平成25年度は物品費等の購入の必要が無かったが、平成26年度はこれまで得られた結果を実験的に検証、証明するために、次年度使用額が生じた。 平成26年度は、平成25年度までに得られた結果をさらに実験的に検証し、より強固なモデルとして報告するための実験を行う予定である。具体的には、培養細胞を用いた実験とマウスを用いた担癌実験、さらにこれらの実験に用いる阻害薬等に使用する。
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