研究実績の概要 |
本年度は、これまでに得られたデータ(EGFR, Ras, ERK, S6K, PKA, JNKのEGF刺激と種々の阻害薬を組み合わせた時系列変化)を基に、EGF-Ras-ERKシグナル伝達系とPI3K-Akt-mTORC1シグナル伝達経路の反応速度論数理モデルを作成した。さらに、このモデルで用いられているパラメーターは、Ras-ERK経路に関してはほぼ実験により測定されたものを用い、PI3K-Akt経路に関しては今回の実験で得られたデータを用いて推定した。BRaf変異癌細胞、KRas変異癌細胞の分子標的薬(BRaf阻害薬、MEK阻害薬)に対する応答性をCancer Cell Line Encyclopediaより抽出し、これらの半定量的なシミュレーションモデルを用いて、この応答性を再現しうるか、その時の分子マーカーを求めることを試みた。その結果、リン酸化ERKとリン酸化Aktの総和が分子マーカーとして適当であることを見出した。さらにそのマーカーを用いて、分子標的薬の効果を予測したところ、KRas変異癌細胞に対してはPI3K阻害薬が効くのに対し、BRaf変異癌細胞に対してはほとんど効かないことが予測され、実際に実験により検証した。さらに数理モデルからPI3K阻害薬とMEK阻害薬の併用が最も効果的であることを見出し、これに関しても実験により検証した。これらの結果をFASEB Journalに投稿し、受理された。
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