研究課題/領域番号 |
23701053
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上岡 裕治 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50511424)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 |
研究概要 |
本研究の目的は、蛍光タンパク質からなるFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)バイオセンサーを用いて、細胞運動を制御するRhoファミリー低分子量Gタンパク質の時空間的活性パターンを生きた動物内で可視化すること、さらに癌と正常組織によって構築される癌微小環境が癌細胞の浸潤過程をどのように促進しているのかを調べることである。そこで申請者は平成23年度の研究計画を以下のように立てた。●Rhoファミリー(RhoA、Rac1、Cdc42)の生体機能イメージング用バイオセンサーを作成し、これらの恒常発現細胞株を作成すること。●麻酔下のマウスを長時間維持し、脈動や呼吸振動を低減させたイメージングシステムの構築すること。申請者は計画通りにH23年度中にRhoファミリー(RhoA、Rac1、Cdc42)の活性をモニターするFRETバイオセンサー発現細胞株(マウス乳がん細胞株4T1)を作成した。また、所属する研究室にある二光子顕微鏡を用いて、麻酔下のマウスを長時間生きたまま維持するシステム構築に成功しており、最長24時間まで顕微鏡観察が可能となった。さらに申請者はTol2トランスポゾンを用いたFRETバイオセンサー発現マウスの作出に成功し、論文発表する成果まで至っている。(Cell Struct. Funct. (2012) PMID: 22277578)このFRETバイオセンサー発現マウスを用いることでマウス間質細胞のERK、PKAの活性を測定することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記述した通り、申請者は平成23年度内の目標をほぼ予定通り達成し、現在はそれらを用いて生体内イメージングを行っている。遂行していない課題は「生体機能イメージング用FRETバイオセンサーの開発」である。波長が500nm前後の蛍光は生体内透過性が低く、また本研究で観察したい部位の一つである乳腺は自家蛍光の多い脂肪組織で覆われているため、従来のFRETバイオセンサーを構成するCFP(シアン色蛍光タンパク質)とYFP(黄色蛍光タンパク質)の組み合わせではイメージングが困難であると予想した。そのため長波長の蛍光タンパク質(オレンジ色、赤色など)の組み合わせを新たに検討する予定であった。しかし、研究を進めていく中でCFPとYFPの組み合わせでも生体内イメージングが十分可能であることがわかってきたため、長波長の蛍光タンパク質の組み合わせを検討することは一時保留している。今後、CFPとYFPの組み合わせで不都合が生じてきたときに改めて検討する。
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでに構築したイメージングシステムを用いて、乳癌細胞の浸潤過程におけるRhoファミリーの分子活性をイメージングする。癌浸潤過程において、腫瘍周縁部では腫瘍中心部よりも癌細胞の運動性が高く、Rhoファミリーの分子活性も高いと予想している。この運動性の違いは腫瘍中心部の低酸素状態に起因すると考え、腫瘍と血管の関係にも注目する。また皮下組織と乳腺組織の違いが乳癌細胞の浸潤に影響を与えると想定し、組織間の運動様式、Rhoファミリーの分子活性の違いを比較する予定である。また平成24年3月に報告したFRETバイオセンサーマウス(遺伝子組換えマウス)を用いて、間質細胞と癌細胞との相互作用を生体イメージングによって明らかにする予定である。H24年度は、マウスの体から切り離した皮膚の裏側に顕微鏡のレンズを当てる「skin flap法」を用いる予定であるが、皮膚を大きく切り開くことで起こる出血や組織の乾燥などが実験結果に影響を及ぼす恐れがある。そのため、現行システムと並行して低侵襲な観察システムを構築することを予定している、その一つとして皮膚を切り開く面積が小さい「ニードル型レンズ」の採用を考えており、顕微鏡メーカーとの打ち合わせを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は主に以下の項目に用いる予定である。・マウスの購入、飼育などにかかる費用・マウスに投与する試薬類、麻酔薬の費用・皮膚を切り開く面積が小さい「ニードル型レンズ」の検討のための出張経費・学会での発表
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