研究課題/領域番号 |
23701054
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木戸屋 浩康 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (00543886)
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キーワード | 腫瘍血管新生 / マイクロRNA |
研究概要 |
本研究では、癌治療法における新たな腫瘍血管制御法の開発の可能性を探るため、その手段としてマイクロRNA(miRNA)による血管新生制御機構を明らかにすることを目的とする。 平成24年度は、腫瘍血管内皮細胞にて特異的に発現が上昇してくるmiRNAとして「mir-125b」を同定し、その機能について解析を行った。まず、培養血管内皮細胞株(HUVEC)を用いて、増殖活性、管腔形成活性、遊走活性等のin vitro の解析を行った結果、mir-125bが血管内皮細胞の血管形成活性に関与している事が確認できた。さらに、データベース上からmir-125bが標的とする遺伝子の探索を行った結果、血管内皮細胞の細胞間接着に働く「VE-cadherin」を候補遺伝子として選定できた。実際に、培養血管内皮細胞に対してmir-125bを過剰発現させることによってVE-cadherinの発現量が減少することが確認され、mir-125bを介した血管新生の制御機構が明らかになった。また、mir-125bを標的とする新薬開発の可能性を検討するため、Lewis lung carcinoma (LLC)癌細胞またはMurine Colon carcinoma (colon26)癌細胞を皮下移植することによって作成したマウス担癌モデルを用いて検討を行った。その結果、腫瘍血管へmir-125bを過剰発現させる事によって、腫瘍中の機能的な血管の数が減少し、腫瘍の増殖が抑制できることが明らかとなった。一方で、mir-125bの阻害でも血管数の減少と腫瘍増殖の抑制効果が認められた。以上の結果から、mir-125bは血管の形成過程で特異的に発現し、VE-cadherinを抑制することによって新生血管の発芽を促進させる「引き金」として機能していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究では本研究課題の中心的な課題でった「腫瘍血管新生の"引き金"となる新規マイクロRNA」として、mir-125bを同定し、血管内皮細胞における役割についてin vitro、in vivoでの実験結果から明らかにすることができた。加えて、mir-125bが制御するの標的遺伝子として、血管内皮細胞の細胞間接着に働くVE-cadrherinを選定することが出来た。さらに、担癌モデルマウスを用いた検討から、mir-125bが血管新生の段階でVE-cadrherinを抑制することによって発芽を引き起こしていることを明らかにした。これらの結果は、マイクロRNAという新たなコンセプトに基づく抗血管新生療法の開発において、mir-125bの制御が標的となり得る可能性を示唆している。以上のような状況をふまえると、本研究は「おおむね順調に進展している」と自己判断するに値する思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、前年度に引き続き、腫瘍血管内皮におけるmir-125bの機能についてより詳細なメカニズムの解析を行うと共に、臨床応用に向けてmir-125bの阻害剤の検討や腫瘍血管内皮細胞以外への副作用について検討を進める。また、現段階ではmir-125bの制御遺伝子としてはVE-cadherinのみを同定しているが、その他の標的遺伝子についても探索を行っていく。加えて、mir-125b以外のマイクロRNAについても腫瘍血管新生との関連性を検討する。これまでに、この腫瘍血管内皮細胞において発現が変化しているmiRNAについてマイクロアレイ解析を行っており、mir-23a、mir-30d、mir-125b、mir-126、mir-341、mir-696の発現上昇が確認している。これら候補遺伝子について、Real-time PCR解析による確認実験、およびin vitro、in vivoでの解析を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
前述した研究推進方策を実行するため、次年度も多くの動物実験を行う必要があるため、研究費は実験動物であるマウスの購入、飼育、実験器具の購入に大半を使用する予定である。さらに、マイクロRNAの促進および阻害実験を行っていく予定であり、そのための実験試薬を購入する必要がある。加えて、細胞レベルでの解析を行うための細胞培養器具、培養試薬、サイトカインなどを購入する。 また、得られた研究結果を広く公表し、さらに新たな知見を得るため、国内外の学会・研究会への参加を予定しており、そのための旅費も申請している。
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