がん原遺伝子産物c-Srcは、種々のがん細胞において高発現、あるいは活性化しており、がん化・悪性化に重要な役割を担っていることが報告されている。したがって、その制御機構の全容解明は重要な課題である。我々はこれまでにc-Srcの活性制御因子群を見いだし、不活性化は脂質ラフトで起こることを明らかにしてきた。その制御機構をタンパク質レベルで明らかにしつつあるが、脂質ラフト自体には踏み込めていなかった。本研究はc-Src制御機構の舞台である脂質ラフトのがん化に伴う変化に脂質からアプローチすることを目的とした。昨年度までに、c-Src発現誘導細胞を用いて、がん化に伴う変化を解析し、スフィンゴ脂質の代謝の変動がc-Srcのラフト外への移行に重要であることを明らかにした。 本年度は、以下の成果を得た。1)c-Srcのラフト外への移行には、スフィンゴ脂質のひとつセラミドの増加が重要であることを明らかにした。2)セラミドの増加を阻害することによって、c-Srcのラフト外への移行が抑制されることを確認した。このとき、Src下流のFAK-MAPK経路のリン酸化も抑制された。3)さらに、c-Srcの発現にともなうがん形質発現(足場非依存性の増殖、接着斑の形成、細胞運動の亢進)が抑制されることを見いだした。以上の結果から、がん化に伴うセラミドの特異的な増加によってc-Srcは脂質ラフトから離れ、不活性化機構から逃れると考えられた。さらに離脱したc-Srcの一部は接着斑に移行し、そこでがん化シグナル伝達の活性化を引き起こしていると考えられる。
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