がんの浸潤・転移におけるラミニンgamma2鎖の重要性をさらに明確にする結果が得られた。間質に浸潤した上皮性のがん細胞はすでにラミニン5を発現していないが、その構成鎖の一つであるgamma2鎖のみを単独で強く発現している。しかし、このgamma2鎖の発現とがんの浸潤性の直接的な関係は明らかではなかった。そこで私は、ヒト膀胱がん細胞EJ-1及びヒト胎児腎由来細胞HEK293にgamma2鎖全長及びgamma2鎖短腕を単独で強制発現させ、ヌードマウスに移植することによって、gamma2鎖短腕が生体内での浸潤性増殖を促進することを明らかにした。そこで、gamma2鎖単量体の活性部位の探索を行い、主にドメインVに活性部位が存在することを明らかにした。また、そのメカニズムとして、gamma2鎖短腕のドメインVが間質系の細胞外マトリックスであるFibronectinやCollagen Iによる細胞の接着や運動を促進することが明らかにした。 そこで、ドメインV抗原として、gamma2鎖ドメインVを認識する抗体の作製を試みた。この作製した抗体がgamma2鎖の活性部位の機能を阻害し、がんの浸潤・転移を抑制できるかどうかを検討中である。 また、betaガラクトシド構造を持った糖鎖に特異的に結合するガレクチンがラミニンやインテグリンの糖鎖に結合し機能を修飾するという報告がなされている。実際、ガレクチン-8とインテグリalpha Mの結合が好中球の接着を誘導することを当研究室が明らかにしている。ラミニンやその構成鎖である、gamma2鎖にも糖鎖結合部位が存在する事から、それらの発現分布を網羅的に調べた。その結果、現在までに数種のガレクチンとラミニン構成鎖ががん細胞で共発現することを明らかにした。そこで現在、糖鎖やガレクチンがgamma2鎖の浸潤促進機構や生理活性に与える影響を調べている。
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