研究概要 |
C.elegans の幹細胞株樹立と腫瘍・糖鎖遺伝子発現制御による腫瘍モデルへの応用に関して以下の成果を得た。1)線虫生殖幹細胞を未分化な状態に維持するNotchシグナル関連遺伝子群(gld-1, 2, lag-2, fbf-1, 2等)の遺伝子機能欠失型変異体の表現型解析;多くの遺伝子が線虫生殖幹細胞の正常分化を抑制し、生殖巣内で細胞の過形成を引き起こした。卵成熟過程に必要な減数分裂が阻害されたまま、異常な細胞分裂を繰り返す表現型が発現した事から、腫瘍形成モデルへの応用の可能性が示唆された。2)ヒト癌関連遺伝子の線虫相同遺伝子の解析;独自に構築した「線虫遺伝子情報解析サーバー」を用いた。ヒト癌関連遺伝子候補466の43%に相当する203の線虫相同遺伝子を特定し、それらの多くが機能阻害により胚性致死等の重篤な表現型を示す事が判明した。また、線虫癌関連候補遺伝子203中には糖鎖遺伝子や生殖幹細胞の分化に関わるglp-1/ lin-12(ヒトNotch homolog 2, リンパ腫と関連)も含まれ、線虫腫瘍モデルのヒト応用への可能性が示唆された。3)線虫腫瘍関連遺伝子の網羅的・複合的機能解析;2)の解析によって得られた結果を基に遺伝子を選定し、RNAi法による機能阻害を行うと共に、変異体の取得、生殖巣への導入による遺伝子改変線虫の作成を行い、分子の過剰発現、細胞内局在を、継時的かつ詳細に解析している。現在までに、GFP融合lag-2(線虫 Delta)過剰発現線虫に対して、Notch シグナル関連遺伝子を機能阻害すると、生殖巣内細胞の過形成と並行して神経組織の形成、分化にも異常が生じる事を見出している。この表現型は以前報告した複合糖質グリコサミノグリカンの機能阻害による表現型と類似しており、糖鎖遺伝子による分化制御、腫瘍形成メカニズム解明の糸口として重要と考えられる。
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