研究概要 |
線虫生殖幹細胞を未分化に維持するNotchシグナル関連遺伝子群(gld-1, gld-2, lag-2, fbf-1, fbf-2等)の機能欠失変異体の詳細な表現型解析から、これら遺伝子の異常が線虫生殖幹細胞の正常分化の抑制と、過形成を引き起こすことを確認した。更に、研究代表者が実施した複合糖質関連145遺伝子の網羅的機能阻害結果を再解析し、グリコサミノグリカン合成に関わる遺伝子の機能阻害による表現型、陰門(vulva)形成異常、生殖細胞数の減少、胚致死などが、Notchシグナル関連遺伝子の異常で生じる表現型と類似することを明らかにした。 特にコンドロイチン合成酵素遺伝子(sqv-5, mig-22)の機能阻害では、上記表現型に加えて、DTCの移動異常や、生殖細胞が減数分裂を行わず異常な有糸分裂を繰り返すemo表現型が観察され、Notchシグナル伝達系による幹細胞分化制御との関連が強く示唆された。浸透圧を調整した培地での線虫遺伝子改変胚細胞培養系は確立したが、生殖幹細胞を基にした株細胞の樹立には更なる検討を要する。 また、ヒトの癌関連遺伝子候補466遺伝子を、独自に開発した線虫遺伝子情報解析サーバーを用いて解析し、その43%に当たる203の線虫オーソログ遺伝子を特定し、その多くが機能阻害により胚致死等、重篤な表現型を示す事を確認した。 興味深い事に、ヒト癌遺伝子の線虫オーソログegl-43遺伝子(Notchシグナル関連の転写因子)の機能阻害では、vulvaと同時に神経組織の形成にも異常が生じ、研究代表者が以前報告したヘパラン硫酸合成酵素(rib-1, rib-2)の機能阻害と類似した表現型を示すことが明らかとなった。これらの成果はNotchシグナルを介した新しい細胞表層糖鎖による分化制御、腫瘍形成メカニズムの存在を示唆しており、線虫を用いた高等動物腫瘍モデル作成の足がかりとなる。
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