研究概要 |
ATLの統合的ゲノム解析から単離したNDRG2が、ATL細胞でプロモーターのメチル化により転写抑制され、PTENのC末端 (S380/T382/T383)のリン酸化を介してPI3K/AKT情報伝達系の活性化に関与することが明らかになった。様々な固形腫瘍でNDRG2はプロモーターのメチル化により転写抑制されていることが知られることから、今回PTENのリン酸化制御の異常がPI3K/AKT活性化に関与するかを検討した。膵臓癌(KLM1, PK9, PK45P)、肝臓癌(HepG2, HuH7)、神経芽細胞腫(NH6, NH12)、胃癌(MKN28, KATOIII)、口腔癌(SAS, Ho1u1)細胞株を用いたウェスタンブロット解析で神経芽細胞腫を除いた全ての細胞株においてNDRG2の発現低下に伴い、活性を負に制御するPTENS380/T382/T383のリン酸化の亢進、並びにAKTの活性化の指標であるAKTS473のリン酸化の上昇が認められた。次に、膵臓癌、口腔癌の細胞株を用いてNDRG2安定発現株を樹立しPI3K/AKT系の活性化について検討した。これらのNDRG2発現細胞株はPTEN並びにAKTリン酸化の顕著な減少が認められ、さらに細胞増殖能について調べたところ、NDRG2発現株は対照株と比較して細胞増殖の有意な遅延が認められた。以上のことから、癌細胞におけるNDRG2の発現低下はPTENのリン酸化を促進させ、PTENの不活化をもたらしAKTの活性化に貢献することが考えられた。さらに遺伝子変異について解析したところ、PTENの変異は認められず、またNDRG2の変異が口腔がん細胞株1例においてのみ認められた(A336S)。従って、ATLを含む多くの癌においてPTENの恒常的リン酸化はPTENの不活性化さらにPI3K/AKTの活性化において重要な役割を果たすことが示唆される。
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