成人T細胞白血病(ATL)のゲノム解析から癌抑制遺伝子候補としてNDRG2を単離し、NDRG2の発現低下はPTENを介してPI3K/AKT伝達経路の活性化に関わることを見出した。癌細胞のAKT活性化の分子メカニズムを検討するため、様々な臓器由来の癌細胞株を用いてNDRG2の発現とPTENリン酸化との関連性を解析した。NDRG2の発現が低下する癌細胞ではPTEN(Ser380/Thr382/Thr383)及びAKT(Ser473)リン酸化の上昇がみられ、NDRG2の発現回復はPTEN、AKTのリン酸化を減少させ、細胞増殖を低下させた。今回、NDRG2によるPTENリン酸化制御の分子機序を明らかにするために、PNPP及びリン酸化ペプチドを基質に脱リン酸化実験を行った。その結果、NDRG2に脱リン酸化活性がないことがわかり、次にPP1及びPP2A阻害剤のオカダ酸で検討したところ、オカダ酸はPTENの脱リン酸化を抑制した。脱リン酸化実験により、PP2AがPTENを脱リン酸化することが明らかになり、免疫共沈降実験からNDRG2はPP2Aと結合しPTENにリクルートすることで脱リン酸化を促進することが明らかになった。また、NDRG2欠損マウスを作製し腫瘍形成について検討したところ、NDRG2へテロ、ホモ変異マウスは、肺や肝臓など様々な臓器由来の腫瘍を高率に発症し、生存期間が短縮した。また、約半数以上の変異マウスはリンパ腫を合併しており、その腫瘍細胞はT細胞性で、かつ高浸潤性を示した。変異マウスの臓器では、PTEN、AKTリン酸化の上昇がみられ、高い細胞増殖も認められた。以上より、NDRG2の発現低下はPTENリン酸化異常、AKTの持続的活性化を導き、癌発生に関わることが示唆された。
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