具体的内容: がん幹細胞の維持に関与するヒストンメチル化酵素(HMT)に着目し、その標的遺伝子の同定、分子機構を解明することを目的として研究を推進した。その結果、①HMTであるEZH2遺伝子産物の新規標的遺伝子であるKLF2を同定した。また、②KLF2遺伝子の機能解析を行い、KLF2が腫瘍形成能、転移能に影響を及ぼすことが判明した。KLF2遺伝子の発現を乳癌、前立腺癌の臨床検体で評価し、腫瘍マーカーへの応用が可能である根拠が得られた(Oncogene 2011)。以上から、同分子が癌の標的分子治療へ応用できると考えた。最終年度は、KLF2遺伝子の癌幹細胞形質に及ぼす影響をFCM、遺伝子発現により検証を行い、本分子が癌細胞の幹細胞性に関わることが判明した。さらに、KLF2遺伝子の発現を誘導する低分子化合物のスクリーニングを目的に、レポータアッセイを基本としたセルベースのハイスループットスクリーニング系を構築し、薬剤ライブラリーを用いて網羅的に検討した。その結果、代謝性疾患に臨床応用されている薬剤により、KLF2遺伝子が誘導されることが分かった。結果、すでに大きな副作用の無い本剤を腫瘍の治療薬として応用できる可能性が示唆された。 意義、重要性: EZH2遺伝子は転移・再発現象に関与する癌幹細胞の存在に深く関わり、腫瘍におけるEZH2-標的遺伝子-腫瘍形質の新規経路の解明は、腫瘍の転移・再発の克服に繋がる。今回、我々はEZH2の下流にある新規標的遺伝子KLF2を同定した。また、KLF2は独立した予後因子であり、新規腫瘍マーカーとしての利用が可能である。さらに、細胞の恒常性に関与するEZH2の直接阻害は癌治療において副作用を生じるが、正常細胞で発現を認めるKLF2を誘導する癌の治療法は副作用が軽減される可能性が高く、さらに、今回の課題により、KLF2を誘導する有力な化合物が同定された。
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