これまでのレトロウイルス遺伝子トラップ用ベクターを改良し、改良型ベクターを用いた遺伝子トラップ法によってマウス繊維芽細胞で遺伝子破壊ライブラリーを作製した。ライブラリー構築の際には改良型ベクターで設計された通り、ハイグロマイシンと、続くネオマイシンの二段階薬剤選択を行い、両対立遺伝子が破壊されるように工夫した。このような方法で作成した遺伝子破壊ライブラリーからアポトーシスに異常が生じ、アルキル化剤であるMNUに耐性となる株をスクリーニングした。あるMNU耐性株の解析からある機能未知の遺伝子を同定し、Mapo2と名付けた。Mapo2は高等真核生物に高度に保存されており、その機能の重要性が予想された。MAPO2のアルキル化剤に誘導されるアポトーシスにおける機能を明らかにするため、ヒトHeLa MR細胞においてmiRNA発現によりMAPO2遺伝子の発現をノックダウンした細胞株を作成した。このMAPO2ノックダウン細胞をMNUで処理すると、DNA損傷チェックポイントは異常を示さず、細胞周期がG2/M期で停止する。一方で、MAPO2ノックダウンによりsub-G1細胞の割合が減少し、アルキル化剤に誘導されるアポトーシスが顕著に抑制されることがわかった。種々のアポトーシスマーカーを用い、MAPO2発現ノックダウンがメチル化剤誘導のアポトーシスに与える影響を調べたところ、BAK活性化、カスパーゼ3の活性化が抑制されており、また、ミトコンドリア膜の脱分極がHeLa MR細胞と比べて有意に抑制されていることがわかった。したがって、新規遺伝子MAPO2はミトコンドリア経路の上流でアポトーシス促進に関わる機能を有することがわかった。MAPO2の機能の更なる解析と相互作用因子の同定によってアルキル化剤に誘導されるアポトーシスの分子機構をより詳細に知ることができると考えられる。
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