研究課題/領域番号 |
23701071
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所) |
研究代表者 |
岡本 三紀 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所), 研究所, 研究員 (20332455)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | がん / 細胞接着 / 細胞運動 |
研究概要 |
本研究課題は、細胞接着および細胞運動を調節する分子のがん形質に及ぼす影響を個体レベルで解明しようとするものである。特に、がん組織と異種細胞間の接着に関与するイムノグロブリン様膜貫通型蛋白質nectinファミリー蛋白質の細胞内共通アダプター蛋白質であり、細胞運動および極性形成に関わるアクチン結合蛋白質afadinに着目し、afadin腸上皮細胞特異的欠損マウスを用いて大腸がん形成およびがん形質の検討を進めている。腸上皮細胞特異的afadin欠損マウスは腸上皮細胞の傍細胞透過性の上昇、腸上皮細胞に傷害を与えるdextran sulfate sodium(DSS)処理に対する感受性の亢進を示し、さらに低分子量G蛋白質Rap1の活性低下が観察された。このマウスに大腸化学発がん実験を適用し、initiatorとしてazoxymethane(AOM)、promoterとしてDSSを処理すると、野生型に比べafadin欠損下では大腸がん形成が有意に増加していた。これらの結果からafadinは腸上皮細胞のバリア機能とホメオスタシスを調節し、炎症性の大腸がん形成に抑制的に作用することが示唆された。またヒト大腸がん培養細胞を用いてafadinノックダウン実験も行った。DLD-1細胞でafadinをノックダウンすると、細胞骨格再構成を伴うシグナルに対して細胞形態変化および細胞間接着面へのアクチン集積低下が観察され、afadinは腸上皮細胞で細胞骨格リモデリング過程においてアクチンを細胞間接着部位に集積させる働きを持つことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Afadinのがん形成および悪性化における役割を明らかとするため、平成23年度は、マウス個体を用いた化学発がん実験、APC遺伝子変異モデルマウスでのポリープ形成能検討、乳がん転移モデルマウスの導入、および培養細胞レベルでのafadin欠損解析を計画した。腸上皮細胞特異的afadin欠損マウスを用いた化学発がん実験結果によりafadin欠損は炎症性の大腸がん形成に対し促進的に働くことが明らかとなった。さらにAPC遺伝子変異マウスとの交配により、発がん率およびがん形質の検討も行っている。また大腸発がんモデルとは別に、肺転移効率の変化を確認するための転移モデルとして乳腺上皮細胞にpolyoma middle T antigenを発現するトランスジェニックマウス(MMTV-PyVTマウス)との交配も進め、MMTV-PyVT/afadin欠損マウスも作製中である。同時に培養細胞レベルではnectinに依存しないafadin機能解析を行うため、遺伝子導入あるいはノックダウン実験を行い、平成24年度の計画で使用予定の培養細胞株の樹立も終了している。平成23年度の実験計画はほぼ予定通り進行しており、現在までにafadinの大腸がん形成における抑制的作用を個体レベルで明らかとした。
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今後の研究の推進方策 |
大腸化学発がんにおけるafadinの抑制的役割に関しての研究成果の発表と、さらにafadinのがん形成および悪性化に対する役割を明らかとする目的で、APC遺伝子変異モデルマウスを用いたがん形質の検討、乳がん転移モデルマウスの作製と解析を引き続き進めていく。また当初の計画通り、平成23年度に遺伝子導入したヒト大腸がん細胞を用い、平成24年度は低分子量G蛋白質の活性測定を含む分子レベルでの実験を進め、nectin依存性および非依存性シグナルを明らかにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度はおもに研究成果発表の諸経費と、転移モデルマウス実験におけるマウス作製および維持、またマウス組織病理解析時の免疫染色に必要となる試薬類の購入、さらに培養細胞を用いたafadin機能解析実験での培養試薬、免疫染色試薬、蛋白活性測定キットの購入に研究費を使用する予定である。
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