本研究課題は、細胞接着および細胞運動を調節する分子のがん形質に及ぼす影響を個体レベルで解明しようとするものである。特に、がん組織と異種細胞間の接着に関与するイムノグロブリン様膜貫通型蛋白質nectinファミリー蛋白質の細胞内共通アダプター蛋白質であり、細胞骨格リモデリングおよび極性形成に関わるアクチン結合蛋白質afadinに着目し、afadin腸上皮細胞特異的欠損マウスを用いて大腸がん形成およびがん形質の検討を行った。腸上皮細胞特異的afadin欠損マウスは腸上皮細胞の傍細胞透過性の上昇、腸上皮細胞に傷害を与えるdextran sulfate sodium(DSS)処理に対する感受性の亢進を示し、さらに低分子量G蛋白質Rap1の活性低下が観察された。また、このマウスに大腸化学発がん実験を適用し、initiatorとしてazoxymethane(AOM)、promoterとしてDSSを処理すると、野生型に比べafadin欠損下では大腸がん形成が有意に増加していた。これらの結果からafadinは腸上皮細胞のバリア機能とホメオスタシスを調節し、炎症性の大腸がん形成に抑制的に作用することが示唆された。ヒト大腸がん培養細胞を用いたafadinノックダウン実験では、細胞骨格再構成を伴うシグナルに対して細胞形態変化および細胞間接着面へのアクチン集積低下が観察された。同時に低分子量G蛋白質RapおよびRacの活性低下と不活性型integrinβ1の蓄積がみられ、wound healing assayによる細胞運動能の低下も示した。以上より、腸上皮細胞では細胞骨格リモデリングの調節が発がんおよびがん細胞運動に影響し、afadinがその役割を担っていることが示唆された。
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