研究課題/領域番号 |
23701074
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
原嶋 奈々江 島根大学, 医学部, 助教 (60345311)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 癌 / 免疫 / シグナル伝達 / アポトーシス / オートファジー |
研究概要 |
本研究の目的は、免疫アジュバント受容体シグナルが癌細胞死やオートファジーに及ぼす影響を検討し、癌治療抵抗性を克服することである。H23年度は、癌細胞株をTLR3リガンドpoly(I:C)で刺激後、細胞増殖能や作用機序、オートファジーとの関連性等を検討した。まず、poly(I:C)を添加した前立腺癌細胞株LNCaPは、caspase依存性アポトーシスとオートファジーを誘導した。LNCaPはPTENを欠損しているためにPI3K/Akt経路が恒常的に活性化しているが、poly(I:C)処理によりAktの脱リン酸化がおきた。細胞周期調節分子の発現低下などの結果をまとめると、poly(I:C)によるTLR3を介するシグナルは、前立腺癌細胞に、オートファジーを伴ったアポトーシスと細胞増殖阻害を生じさせ、その機序として、PI3K/Akt経路の抑制が関与していることが明らかとなった(Harashima, et al. Cancer Immunol Immunother. 2011)。次に、細胞質内受容体MDA5も標的とするため、poly(I:C)のtransfectionにより誘導される抗癌効果をヒト乳癌細胞株で調べると、濃度依存的に細胞生存率が低下した。MCF7細胞では、poly(I:C) transfection後にオートファジーが誘導され、それをBeclin-1ノックダウンにより阻害すると、アポトーシスは増強された。さらに、ヌードマウスのxenograftモデルで、癌局所へpoly(I:C)導入後、癌増殖が有意に抑制された。以上より、poly(I:C)の細胞質内への導入は、癌細胞に対する抗癌効果と免疫賦活を同時に誘導できる有効な方法であることが示唆された(Inao et al, Breast Cancer Res Treat. 2011)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト前立腺癌細胞株と乳癌細胞株をTLR3リガンドであるpoly(I:C) 存在下で培養、あるいはトランスフェクションにて細胞内へ導入したときの癌細胞死、細胞増殖抑制を検討できた。また、免疫アジュバント受容体を介したシグナルで誘導されるオートファジーと癌細胞死との関連性を一部解析できた。さらに、ヌードマウスを使った実験で、癌局所へpoly(I:C)を細胞内導入すると、乳癌増殖が有意に抑制される結果を得た。これらの研究成果は、日本がん免疫学会、日本癌学会、日本免疫学会等で発表し、2つの学術誌へ論文として掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
癌細胞株をTLRリガンド刺激した場合のシグナル伝達経路の解析をすすめ、まだ不明な点も多い癌細胞死とオートファジーの関係をさらに検討したい。樹状細胞では、TLRを介する刺激によりHLA分子の発現が高まることから、乳癌や前立腺癌で低いHLA分子の発現を回復させることができる可能性があり、腫瘍特異的CD8+キラーT細胞による癌関連抗原の認識及び細胞傷害活性の増強が予想される。選択的アポトーシスを誘導するTLRシグナル経路と、癌反応性CD8+キラーT細胞やNK細胞による細胞傷害活性効果の検討が、前年度はほとんどできなかったので、本年度中に解析を進めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究初年度(H23年度)3月時点で、初年度交付研究基金の残高が12,497円であった。購入希望の蛋白発現検出用抗体製品が約50,000円であったため、残金では購入できず、その他低額の試薬類も商品在庫や納期の時間的都合により、3月末までに購入することが難しかったため、12,497円が初年度末に残額として生じてしまうこととなった。科学研究費補助金の一部基金化により、年度をまたぐ物品調達が可能となったので、次年度に交付される学術研究助成基金助成金と合わせて、本研究遂行に必要な試薬を購入することとした。本研究2年目となるH24年度は、シグナル伝達経路解析に必要な抗体、siRNA、分子生物学実験用試薬や、細胞培養用液体培地や血清、サイトカイン、阻害剤などを中心とした細胞培養関連試薬およびプラスチック実験器具類等の消耗品購入に、交付される研究費の6~7割を充てる予定である。その他は、研究成果を所属学会(国内)で発表するための旅費、研究成果を英文科学雑誌に投稿するための英文校正費や論文投稿料などに使用する予定にしている。
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