細胞傷害性T細胞(CTL)が認識するエピトープペプチドは、ヒト主要組織適合性抗原(HLA)と複合体を形成し、その複合体をCTLが認識する。CTLは特異的なエピトープペプチドとHLA複合体を認識するとそれを発現している細胞を殺傷する能力がある。このためがんに特異的なCTLを用いてがんを治療するがん免疫療法では腫瘍抗原由来のエピトープペプチドとHLAの情報が重要である。日本人に多いHLA-A24に乗るエピトープの報告は少ないため、より多くの有用なエピトープペプチドを見出すこと、そして抗原提示装置の異なる腫瘍細胞からCTLが認識するエピトープを同定するために腫瘍細胞の特性を調べた。 複数のオートファジー阻害剤および複数のオートファジー関連遺伝子をRNA干渉法によって発現抑制を行った結果、オートファジーがピューロマイシン感受性アミノペプチダーゼという抗原の提示に関与していることを見出した。一般的に抗原提示機構において、抗原の分解にはプロテアソームが大きく関与していて、オートファジーと呼ばれる細胞内分解機構がエピトープの生成に関与していることはこれまでに2つしか報告されていない。その上、このオートファジーは生理的に観察されるオートファジーではなく、K-ras遺伝子の活性型変異を有することにより誘導される高活性型のオートファジーによって生成されていることが示唆された。さらにK-ras遺伝子の活性型変異を有する膵がん細胞株で顕著にオートファジーの高活性化が観察され、このうちHLA-A24を発現している膵がん細胞はCTLから認識された。 これらのことから、K-ras遺伝子の活性型変異を有するがん細胞においては高活性型のオートファジーによって他にもエピトープが生成されている可能性が示唆され、腫瘍免疫学および癌免疫療法にとって非常に意義のある結果であると考えている。
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