研究課題
本研究は世界に先駆けて成人T細胞性白血病(ATL)発症予測マーカーの診断薬化、治療用抗体の実用化が十分に見込まれる分子群の同定を目的として研究を行っている。現在までに患者末梢血を用いてHTLV-1感染細胞群であるCD4+CD25+CCR4+ T細胞を抽出し、定量質量分析技術を用いた総タンパク質発現プロファイリングを実行し、ATLで極めて特異的に発現変動している17種類のバイオマーカー候補タンパク質の同定に成功した(論文投稿中)。これらのバイオマーカーを使い、バイオインフォマティクス的手法を用いて構築した予測モデルでは92%の高い正答率を得ており、極めて信頼性の高いバイオマーカーの抽出に成功したと言える。ATLの中でも特に急性型、リンパ腫型は進行が早く、早期診断が極めて重要である。しかし現状では患者の自覚症状からATLが判明する事が大半であり、診断時に病状が進行している事例が多い。本研究で得られたマーカー群はATL患者検体で特異的に発現が変動していることから、これらを用いて樹立した診断システムを定期診察へ組み込むことにより、約110万人と推定される国内のキャリアの中から早期治療介入を必要とするATL発症者への早期治療介入を促進し、予後改善につながるものであると期待される。またこれらのバイオマーカーはATL特異的に高発現している4つのタンパク質群を含んでおり、現在までにATL細胞株でのsiRNAによる発現抑制により細胞増殖が抑えられる候補の同定に成功してきている。臨床レベルでは抗CCR4抗体による治療法が臨床試験において50%の奏効率を示し、ATL治療に劇的な改善をもたらすものと考えられる一方、残る患者に対する治療法は非常に限られているのが現状である。本研究による治療標的候補の同定は阻害剤の開発などを通じてATLに対する新規治療法開発につながるものと期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究ではATL治療の改善に寄与するべく、ATL早期発症予測マーカー及び治療標的とし機能し得る分子群の同定を目的としている。1年目を終えた現在までの研究で既に17種類のATL発症予測マーカー候補を同定し、これらのマーカーを基に機械学習の一種であるサポートベクターマシン(SVM)を用いた予測モデルを作成し、ATL及びHTLV-1で引き起こされる神経疾患であるHTLV-1 Associated Myelopathy (HAM)を無症候性キャリア(AC)の4区分を92%の正答率で予測することが可能なモデルの確立に成功した。これらの結果は同定された候補タンパク質がATL早期診断システムに用いるバイオマーカー候補として、診断の正確性という臨床現場のニーズに応え得る十分な性質を有している事を示しており、当初研究の目的の一つとしてとらえたバイオマーカー候補の同定を本課題一年目に達成していると考えられる。これらに加え、現在ATL特異的に発現が増加している4遺伝子を治療標的候補としてとらえ、ATL細胞株においてsiRNAによる増殖抑制効果を検討している。既に1遺伝子に対するsiRNAによる遺伝子発現抑制がATL細胞株の増殖抑制効果を示すことを確認しており、残る遺伝子に関しても順次研究を進めている段階にある。以上のように本課題1年目にして当初の計画に加え新規治療標的候補を見出すに至っており、当初の計画以上の成果を上げるに至っていると考えられる。
健常者(ND), AC, ATL, HAMの患者末梢血検体を聖マリアンナ医科大学及びJSPFADより順次提供を受け、100例規模のサンプルを用いてマルチマーカー診断法の検証をFACSaria(BD)を用いて行う。本課題1年目に同定されたバイオマーカー候補に対する抗体を作成し、染色条件を検討する。抗体の樹立及び染色プロトコルの最適化後にCD4+、CD25+、CCR4+に加えてバイオマーカー特異的な染色を行い、FACSariaにて解析後、定量化を行う。定量情報をLeave One Out Cross Validationを使ったSVMなどの分類器を用いた予測モデルに供して、最も誤答率の低い組み合わせのバイオマーカーセットをRecursive Feature Eliminationの手法を用いて抽出し、これらを用いて予測モデルを最適化した後、診断法としての有用性を検証する。また、本課題で同定された治療標的候補に対しては、siRNAによる増殖抑制効果を確認し、治療標的としての有用性を検討する。同定されたバイオマーカー候補のうち、治療標的分子に応用が可能と目されるものは、生殖器官を除く全ての正常臓器での発現が全くないか非常に低いタンパク質である必要があるため、組織アレイ抗体染色を用いて他臓器、特に重要4臓器(心、肺、腎、肝)での発現を慎重に検証する。なお本実験は一人で行われ、使用するFlow Cytometerは所属施設のコアファシリティーで利用可能である。
物品費はFlow Cytometry技術を使った診断システムの樹立と治療標的候補の検証にあてられる。具体的には(1)課題の一年目にすでに同定が終了しているバイオマーカー候補のうち市販の抗体が存在しないものに対するポリクローナル抗体樹立のための抗原の作成・抗体作成用実験動物の購入・維持、(2)作成された抗体の評価で用いるウェスタンブロッティング等に使用される試薬、(3)ATL細胞株を使った分子標的候補の検証に使用するsiRNA及びトランスフェクション試薬であるnucleofector(Lonza)の購入、(4)細胞培養に使われる血清、培地等の消耗品の購入にあてられる。旅費は成果発表のために参加予定である国内学会(日本癌学会)、国外学会(HUPO、アメリカ癌学会)への旅費として使用される。
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Leukemia
巻: 26 ページ: 332-339
10.1038/leu.2011.203.