低酸素誘導因子HIF-1αは発癌過程において血管新生,糖代謝を促進する因子として働くため多くの癌で治療標的因子として注目されている。HIF-1α蛋白質は酸素,鉄の存在下においてアミノ酸402番目,564番目のプロリン基が水酸化され分解されることが知られている。本研究では新規鉄輸送促進剤LS5-81の細胞への鉄の取り込みを促進するという作用を利用し,HIF-1α蛋白質を抑制し,それによる肝癌治療効果を検討した。 ヒト肝癌細胞株Hep3BとHepG2をそれぞれLS5-81と鉄の存在下で培養するとHIF-1α蛋白質の発現が抑制されたがHIF-1α mRNAの発現は抑制されなかった。HIF-1αの水酸化部位であるプロリン基をアラニン基に置換した変異型HIF-1α蛋白質を発現する細胞を樹立し,LS5-81と鉄の存在下で培養すると変異型HIF-1α蛋白質の発現は抑制されなかった。これらの結果はL5-81による鉄吸収促進作用はHIF-1α蛋白質の水酸化を促進する事で発現を低下させることを示している。 Hep3BとHepG2をLS5-81と鉄の存在下で培養すると細胞増殖が抑制された。さらに,免疫不全マウスにHep3Bを移植した移植肝癌モデルに対してLS5-81を投与すると腫瘍が出血を伴い退縮した。また,移植腫瘍におけるHIF-1α蛋白質の発現もLS5-81を投与することによって抑制された。これらの結果はLS5-81による鉄輸送促進効果がHIF-1α蛋白質の水酸化を促進することで発現を抑制し,抗腫瘍剤として機能する可能性を示唆している。
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