本研究課題は、がんの根治を目指した新規治療法開発の為に、がんの血行性転移阻害剤の開発を行うことを目的とする。すなわち、血行性転移の際にがん細胞と血小板が形成する凝集塊をin vitro共培養系で再現することで、血小板依存的ながん細胞の増殖亢進機構を明らかにする。今年度は、昨年度に同定した分子が血小板依存的ながん細胞の増殖亢進に寄与する可能性や、上流のレセプター分子に関して検討を行った。 昨年度、血小板との共培養により肉腫細胞株の増殖が優位に亢進することや、その際にAktリン酸化が亢進することを示した。そこで、PI3K阻害剤LY294002を用いた検討を行ったところ、LY294002処理により血小板依存的な肉腫細胞の増殖亢進がキャンセルされることが確認された。また、血小板と肉腫細胞の相互作用はAdriamycin誘導性のアポトーシスに対する抵抗性を付与することや、この抵抗性がLY294002処理によりキャンセルされることを明らかにした。次に、血小板依存的な肉腫細胞の増殖亢進機構の引き金となる分子を探索したところ、肉腫細胞における血小板凝集促進因子Aggrusの高発現を見出した。また、血小板依存的に増殖を亢進する肉腫以外の幾つかのがん腫においてもAggrusの発現を確認した。そこで、Aggrusの活性を阻害する抗Aggrus中和抗体が血小板依存的な増殖亢進および血行性転移に与える影響を検討したところ、抗Aggrus中和抗体は肉腫細胞の増殖亢進に大きな影響を与えなかったが、いくつかのがん細胞の血行性転移を阻害することを確認した。以上より、血小板と肉腫細胞の相互作用は、肉腫細胞の増殖能と薬剤抵抗性を亢進することで腫瘍悪性化に寄与することや、その鍵となるのはPI3K-Akt経路であるという新たな知見を得た。さらに、抗Aggrus抗体が血行性転移阻害剤として有用である可能性が示唆された。
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