最終年度である今年度は、前年に引き続き水圏多細胞生物を採取し、それらに共生または寄生する菌の単離を行い、その培養抽出物より抗腫瘍物質の探索を行った。その一方で、海洋研究開発機構のグループとの共同研究により今後深海生物の入手が可能となる見通しとなり、予備試験としてまず深海底泥を塗布した培養プレートより28株の菌類を単離した。これらの培養抽出物のうち二点に特徴的な毒性パターンが確認された。活性成分の同定については今後の課題である。また、前年度より精製中であった分子式C28H47N9O13の化合物についてはferricrocinと同定した。 本研究では、水圏多細胞生物に共生、寄生する微生物を単離、培養し、その代謝産物から新たな抗腫瘍物質を探索することを目的としてきた。期間全体を通して採取した24種類の宿主生物と深海底泥より合計約1000株の細菌および真菌類を単離した。それらの培養抽出物を52種類のヒトがん細胞株と数種類のマウス正常細胞群に対する細胞毒性評価系にあて、特徴的な毒性パターンを示すものに注目し、活性成分の単離、同定を試みた。その結果、13種類の既知化合物が同定された一方、HR-MS解析とデータベース検索の結果新規物質と考えられる化合物が8種類確認された。これらに関しては今後引き続き検討していく予定である。また、細胞毒性評価系の改良も適宜行い、その一環として各種市販化合物や天然化合物などの毒性パターンの評価も行ってきた。この過程でマウスでの実験で有望な抗腫瘍活性を示した新規物質lentztrehalose を発見し、目下、特許申請、論文発表の準備中である。また、本研究者らがその作用を発見し、本研究でも評価対象としてきたプロテインフォスファターゼ 2A 特異的阻害物質rubratoxin Aについては試薬としての市販化の実現につなげることが出来た。
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