本研究では、人間活動が大気ラジカル濃度へ与える影響や界面反応による新たなラジカルの生成過程に対し知見を得ることを目的とし、一酸化ハロゲンラジカルなどのラジカルの新規の生成過程などを調査する研究を行った。平成24年度においては、海洋から一酸化ヨウ素ラジカルの生成過程の正確な理解のために必要な基礎データの内、これまでの報告が間違っている可能性の高いヨウ素原子間の結合反応の測定を行った。ヨウ素原子は、海洋から大気中に放出されたヨウ化アルキル類が太陽光で光分解され大気中に生成される。ヨウ素原子は大気中で酸化され一酸化ヨウ素ラジカルを生成するが、一方、ヨウ素原子同士が反応して不活性なヨウ素分子を生成する。一酸化ヨウ素ラジカルと比べ、ヨウ素分子は不活性であるためヨウ素原子を大気に貯蔵する働きをもつため重要である。しかし、この反応の速度定数の報告値は疑わしいとの指摘がある。ヨウ素原子間の反応が一酸化ヨウ素ラジカルの生成過程に対してどのような影響を与えるかを正確に評価するためには、ヨウ素原子間の反応速度定数の定量的な理解が必要である。そこで、本研究では時間分解型キャビティーリングダウン分光法を用い、ヨウ素原子間の反応速度定数を決定した。ヨウ素原子間の反応の速度定数の値は、これまでに報告されている値の約2000倍大きい値であることがわかった。このことより、ヨウ素原子同士の反応によるヨヨウ素分子生成が実際に大気に及ぼしている影響は、これまで考えられていたより非常に大きい可能性があり、この反応の大気中での影響の見積を再評価し直す必要があることがわかった。
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