本年度は,岐阜県高山市の冷温帯落葉広葉樹林を対象とした,群落フェノロジーと気温データを用いた群落フェノロジーモデルの構築,(2)観測値に基づいた生態系モデル(改良版NCAR/LSM)の検証・最適化,(3)気候モデル(CMIP3 Multi-Climate Models)用いた生育期間および炭素収支の将来予測を行い,温暖化の影響によって延長された生育期間が落葉広葉樹林の炭素収支に与える影響について評価した。気温と群落フェノロジーの関係を気候モデルのA1B,A2,B1シナリオの将来予測気温に適用し,展葉開始から落葉終了日(生育期間)の将来予測(2046-2065年)を行い,現在(2002-2007年)と比較した。将来予測では現在と比較して,展葉開始が10~13日早まり,落葉終了は7~9日遅くなった。結果として,落葉広葉樹林の生育期間は17~22日延長した。また,融雪終了日が8~12日早まり,根雪開始日が5日遅くなった結果,下層植生を含む森林生態系全体の光合成可能期間が13~17日増加した。この結果,将来の生態系全体の総光合成量,生態系呼吸量,総生態系生産量は,現在と比較して,それぞれ9~12%,9~12%,12~17%増加した。これらの増加分は主に落葉広葉樹の寄与が主体であり,林床ササ群落の寄与率はほとんどなかった。これらの結果から,気候変動による群落フェノロジーと森林生態系の全体の光合成可能期間の変化が落葉広葉樹および森林生態系全体の炭素動態に大きな影響を与えることが明らかとなり,気候変動下における落葉広葉樹林の炭素収支を広域に評価するために,融雪・根雪のタイミング,群落フェノロジーの時空間分布の高精度な推定とこれらの予測型モデルの高精度化が重要であることが示唆された。
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