研究課題/領域番号 |
23710007
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平尾 茂一 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30596060)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | ラドン / トレーサ / 環境放射能 / 長距離輸送モデル / 逆推定 / フラックス |
研究概要 |
大気汚染物質の広域輸送の解明には化学輸送モデルによる数値計算が有効であるが、複数のサブモデルから成るモデルの不確かさの評価は容易ではない。本研究では天然放射性核種のラドンおよびその壊変生成物をトレーサに用いて、モデル内で表現された大気輸送・湿性沈着過程の不確かさ推定手法の確立すると共に、輸送現象そのものの知見を得ることを目指している。研究課題として具体的には1)大気中ラドン濃度観測値の信頼性向上、2)アジア域のラドン放出率分布の高精度化、3)ラドン長距離輸送モデルの不確かさの評価を目的とした。平成23年度は、大気中ラドン濃度観測網の中から八丈島および波照間島での測定器を重点的に整備し年間の連続した測定値を得た。波照間島には、従来に比べて低い検出限界を持つ大気中ラドン濃度測定器を新たに設置し、低濃度時も信頼性の高い測定を可能にした。波照間島の測定値には数日周期の濃度変化が見られ、この変化は低気圧の移動に伴い中国大陸で発生したラドンの長距離輸送が主因であった。夏季の低濃度時には東南アジアで発生したラドンによる寄与が存在し、その寄与は約60%であることが新たに示された。波照間島起源の寄与を推定するために、チャンバー法を用いた土壌-大気ラドン放出率の直接測定を実施した。島の大部分を占める耕作地の土壌表面は乾燥し亀裂が多く直接測定に不向きであったため、ラドンの親核種であるラジウムの土壌含有量からラドン放出率を推定することとした。また、土壌中の輸送過程を定式化した物理モデルに、新たに土壌粒径の大小の特徴をモデル変数に加えて全球の放出率分布を推定した。一方、波照間島の測定値を用いた東南アジアからのラドン放出率の逆推定では、インドシナ半島の放出率が従来よりも高いことが示唆された。今後ラドン放出率分布の精度の検討を踏まえて、ラドン長距離輸送モデルの不確かさ評価を実施する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)大気中ラドン濃度観測値の信頼性向上に関して:八丈島と波照間島の測定装置の保守作業と測定値の品質管理を徹底し、年間を通して信頼性の高い測定値を得た。波照間島では当初の予定よりは遅れたものの高感度大気中ラドン濃度測定器の設置を完了し、順調にラドン濃度の測定結果が得られた。波照間島の測定値については解析を開始し、濃度の時間変化に見られる特徴を把握した。その結果、夏季の低濃度時に東南アジアから発生したラドンの寄与が全体の濃度の約60%を占めることを新たに見出した。2)ラドンの放出率分布の精度向上に関して:土壌中のラドン拡散過程の定式化に基づく物理モデルを用いて、これまで無視してきた土壌粒径の大小の特徴をモデル変数に加えて全球の放出率分布を推定した。アジア域の推定値の妥当性を検討するために、放出率を入力したラドン長距離輸送モデルによる大気中ラドン濃度の計算値と測定値の比較を行った。3)ラドン長距離輸送モデルの再現性の検討に関して:海水面は主要な大気へのエネルギー供給源であることから、海水面温度データの違いによるモデル計算結果の変化について予備実験を実施した。海水面温度データをこれまでの月平均値から週平均値に変更したところ、地表付近の大気中ラドン濃度の再現性が向上する結果が得られた。このように、天然放射性核種のラドンをトレーサとして利用した大気輸送モデルの不確かさ推定手法の確立に関する研究を順調に進めることができたため、現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」と評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
1)大気中ラドン濃度観測値の信頼性向上に関して:本年度も八丈島と波照間島での大気中ラドン濃度の測定を実施し、測定装置の保守および測定値の品質管理を確実に行い、複数地点かつ長期間の信頼性の高い測定データセットの整備を進める。2)ラドンの放出率分布の精度向上に関して:新たに推定したラドン放出率分布を入力したラドン長距離輸送モデルによる大気中ラドン濃度の計算値と測定値の比較は平成23年度に一部着手している。今後は大気中ラドン濃度の測定値に基づく逆推定を組み合わせ、放出率分布の不確かさを含めて検討した推定結果を、成果論文に取りまとめる。3)ラドン長距離輸送モデルの再現性の検討に関して:平成23年度までの測定結果とラドン放出率分布の推定結果を踏まえて、ラドン長距離輸送モデルの再現性を調べ、モデルの不確かさを明らかにする。具体的な検討項目は、大気混合層の高さのモデル再現性と大気中ラドン濃度の再現性、モデルの境界条件の変更に対する大気中ラドン濃度の再現性の違いである。それぞれを調査しモデルの誤差要因を抽出することで、ラドンを用いたモデルの不確かさ推定手法の有用性を検証する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
波照間島での高感度の大気中ラドン濃度測定器の設置作業が予定より遅れたため、平成23年度に予定していた波照間島での測定装置の保守作業の一部を平成24年度に実施する予定である。次年度の研究費の使用計画に関しては、現地での測定装置の保守回数の増加以外は、申請書に記載した計画と大きな変更なく学会発表、論文作成、消耗品の購入を実施する予定である。
|