本研究では天然放射性核種のラドンおよびその壊変生成物をトレーサに用いて、モデル内で表現された大気輸送・湿性沈着過程の不確かさ推定手法の確立すると共に、輸送現象そのものの知見を得ることを目指している。平成24年度は、波照間島と八丈島での大気中ラドン濃度観測・解析作業を継続するとともに、ラドン長距離輸送モデルの不確かさを検討した。前年度に設置した高感度の大気中ラドン濃度測定器で取得した観測値と過去約10年間の観測値を合わせて長期の連続観測値を整備した。いずれの地点でも冬季に高濃度、夏季に低濃度を示す季節変動が見られ観測地点に到達する空気の起源に応じた濃度変動が観測で得られた。近年、年によっては夏季の特徴が9月中旬まで継続する場合が数例ではあるものの存在し、これは太平洋高気圧が日本付近への張り出した期間と対応していた。日本付近の大気質の変化をラドン濃度の観測値が捉えたことを示す結果であり、陸面で発生する物質の長距離輸送モデルの検証を行う場合のラドンの有効性が確認された。また波照間島でのラジウム含有量の測定を実施した結果、本州の平均的な値に比べて2から3倍程度高いことが分かった。観測値の島起源の影響を定量評価するための基礎的な知見が得られた。また、八丈島、波照間島、落石岬のラドン濃度観測値を用いて長距離ラドン輸送モデルの再現性の評価を行った結果、季節毎に異なる再現性を示す特徴を明らかにした。輸送途中での鉛直混合の構造に着目し温位の鉛直分布のモデル再現性を検討した結果、春季には良い再現性を示したものの、冬季では大気境界層高さの過大計算によってラドン濃度の過小計算傾向が生じていた。モデルに与える海面水温分布の過大傾向がその一因である可能性を示した。
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