研究課題
<表層土壌中グローバルフォールアウト核種インベントリー見積り>土壌中のCs-137およびU-236の蓄積量(インベントリー)を見積もるために、日本国内(秋田、長野、石川、広島)の未撹乱地の表層土壌コアを分析した。表層土壌中Cs-137、U-236の深度分布は、ともに最表層でも最も濃度が高く、深度と共に指数関数的に減少する傾向が見られた。これら核種の蓄積量は、採取場所により異なりCs-137、U-236はそれぞれ1090-4340, (5.9-25.6)x10^12 atom/m2であり、平均すると約2720 Bq/m2, 13.4x10^12 atom/m2であった。これら核種の236U/137Cs比は試料採取地点に関わらずほぼ一定であった。<日本海でのU-236測定と分布>大和堆付近で採取した11深度海水試料中のU-236濃度は(1.27-0.16)×10^7 Bq/kgの範囲であり、表層で濃度が高く深度が深くなるにつれ低くなっている。これら全ての深度における浮遊懸濁物質中のU-236は検出限界以下であった。水柱インベントリーは13.7x10^12 atom/m2と見積もられ、上記で求めたフォールアウトインベントリー13.4x10^12 atom/m2とほぼ同様な値であった。堆積物中のU-236インベントリーは、海水柱中の1/100以下であった。さらに、これまで海洋トレーサーとして用いられてきたCs-137との深度分布を定量的に比較するために、水柱におけるU-236の拡散係数を求めると、渦拡散方程式または差分法により求めたいずれもがCs-137のそれと同様な値であった(約4-5 cm2/s)。以上より、日本海の大和堆付近では、グローバルフォールアウトによって海洋に供給されたU-236は主として溶存態で水柱に存在し、Cs-137と同様な挙動をしていることがわかった。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度の当初の計画は、(1)日本海に供給されたU-236の起源が主にグローバルフォールアウトによるものかを明らかにするために、環日本海域における土壌中インベントリーを求める事、(2)日本海で試料採取(水、懸濁物、堆積物)を行うこと、(3)(2)試料の分析を進め、データを順次出すこと、であった。(1)に関しては、上記したように環日本海域、特に日本国内での表層土壌コア試料を採取した。インベントリーを得るだけではなく、未撹乱地か否かをきちんと見極めるために、表層から5 cmごとにカットして深度分布に関する情報も得た。これら土壌試料から、目的核種を酸抽出および化学分離を行い測定した結果、オーダーとしては変わらないが、より正確なインベントリーを見積もることができた。(2)および(3)に関しては、今年度、試料採取および分析の一部の予定であったが、上記したように非常に興味深い結果がすでにデータセットとして得られたため、科研費使用初年度にも関わらず、一部のデータセットをまとめて国際誌へ投稿することができた。現在最終修正を行っている段階であり、近々受理される予定である。この雑誌は、地球科学分野でも最高峰と言われている雑誌の一つであり、新規性やその応用が認められたものと考えられる。このように、初年度の進行予定を大きく上回る成果が出たため、達成度は十分であったと確信する。
日本海において、U-236およびCs-137に関しては一部のデータが得られたが、未分析の試料も残っている。そこで、今後はこれら全ての分析を終わらせ、海水、懸濁物質、および堆積物に関するデータセットを得る。また、プルトニウム同位体の分析も新たに着手し、完全に保存性(溶存性)ではない放射性核種のデータセット取得する。これらの情報は、日本海におけるプランクトンや砕屑物など、水中から堆積物へ物質を除去する役目を果たす浮遊懸濁物質の挙動を間接的に反映するため、海水のみならず懸濁物も含めた日本海での物質循環に関する情報を得ることが可能となる。 また、実績の概要および達成度の項目に記したように、一部の結果についてはすでに国際誌に投稿したが、モデリング等は未だ多くの仮定を含んでいるために完全とは言えない。そこで、より確からしい解析モデルを組み、得たデータを解析することを主の目的とする。モデル確立のため、これまで発表されてきた様々なデータや我々の研究グループで所有しているデータの解析を行う他、必要に応じた追加サンプリングも行う予定である。場合によっては、比較のために太平洋での試料採取および分析を行い、日本海における目的放射性核種の濃度や蓄積量、さらには独自の海水循環についての理解を深める。
本研究で用いる分析法は、目的核種を他のマトリックスから完全に単離することが必要である。また、クロスコンタミネーションなどの汚染を避けるために、使用品の多くはディズポーザブルな実験器具を利用している。そのため、23年度と同様に海水、懸濁物質、堆積物の試料処理には試薬類および実験器具が必要となるため、研究費の多くが物品(消耗品)費に計上されている。 その他、ウランやプルトニウム同位体測定では、国内でも1機しか設置されていない特殊な装置を用いる必要や、国内では設備されていない装置を利用する必要があるため、国内外の旅費が必要となる。 必要試薬量や実験器具などの消耗品に関わる経費、また国内外旅費も見積もりに準じているため当初の申請通りに予算使用可能であることが予想される。
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Geochemical Journal
巻: 46 ページ: 73-76