研究課題/領域番号 |
23710008
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
坂口 綾 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00526254)
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キーワード | U-236 / 日本海 / グローバルフォールアウト / 海洋循環トレーサー / Cs-137 |
研究概要 |
<日本海でのCs、U、Pu同位体測定と分布>大和堆以北からタタール海峡で採取した7地点、それぞれ十数深度、あわせて171試料全ての海水試料中の溶存態および懸濁態Cs、U、Pu同位体濃度の定量を行った。溶存態として存在するU-236は、懸濁態として存在する量の約1000倍以上であり、日本海の水柱では何れの地点においても溶存態として存在していることが明らかになった。また、水柱に存在するU-236のインベントリーは海底堆積物中のそれと比較して約100倍であり、粒子との反応性は非常に小さく水中から除去されておらず、上記のように溶存態として存在しているということをサポートする結果となった。また、海峡付近で採取した試料以外は、表層でU-236 濃度が高く深度が深くなるにつれ低くなるという天然Uとは全く異なる深度分布が得られた。このU-236深度分布は、同じ試料で測定した人工放射性溶存核種Cs-137と同様な深度分布であった。しかし、北緯43度 東経138度付近の海底でU-236濃度の上昇がみられ、沈み込みによる供給が示唆された。このようにU同位体で得られた深度分布などは、Pu同位体では見られず粒子との親和性の違いなどが考えられる。 <日本海へ流入するU-236供給変遷史解明>赤道太平洋の核実験サイトに生息するサンゴコア試料中のU 同位体分析を年輪ごとに行った。この試料は1944年から2008年までの歴史をとどめており、当時の海水中U同位体も保持している。ここのサイトを流れる北赤道海流は、いずれ黒潮、対馬海流となり日本海に流入する。そのため、この試料を用いて北赤道海流中のウラン同位体(海水中のU同位体)組成を復元できる。この分析の結果、日本海には大気圏内核実験が最大であった1963年より以前に、水爆により生成したU-236が日本海に流入していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の当初の計画は、(1)日本海で採取した全ての海水、浮遊懸濁物質試料中のU、Pu 同位体測定、(2)日本海で採取した全ての堆積物中のU同位体測定、であった。 (1)に関しては、上記したように全ての採取点および深度の海水、浮遊懸濁物質、延べ約350試料中のUおよびPu同位体測定を終え、それぞれ同位体の存在状態や、平面および深度分布について議論を行うことができた。(2)についても、堆積物表層から深度5 cmのスライス試料全てにおいてU 同位体測定が終了し、水柱に存在するU-236量とスカベンジされたU-236量の比較が可能になった。 さらに、海流を通じて日本海に流入したU-236の変遷史をマジュロ環礁で採取したサンゴコア試料から復元するための研究も併せて行う事ができた。また、対馬海流が流入する海峡に位置する壱岐島にてサンゴコア試料が採取できた。これは、実際に海流を通じて日本海に流入したU-236とフォールアウトとして大気より導入されたU-236を復元すべく非常に貴重な試料である。 そのほか特記すべき事としては、昨年度の結果を論文にまとめたものを国際誌に投稿していたが、それが受理された。 このように、初年度の進行予定を大きく上回る成果が出たため、達成度は十分であったと確信する。
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今後の研究の推進方策 |
日本海において、Cs、U、Pu同位体に関してはほぼ全てのデータセットが揃いつつある。来年度は、最終年度にあたるため、これらデータをなるべく早い段階で総括し、解析に必要な試料採取や追加分析を行うことにより、穴のないデータセットを構築する。さらに、今年度からマジュロ環礁で採取したサンゴコア試料中のU同位体測定に着手し、日本海に海水を通じて流入するU-236変遷史復元を試みているが、これに関して全ての年輪試料の分析・測定を終了する。また、壱岐島でも日本海に実際流入した変遷史を復元すべく試料を採取したので、できる限りこの試料分析を行う。これらサンゴコア試料より得られた、日本海表層に流入したU-236濃度について明らかにすることで、日本海におけるU-236のより確実な海水循環トレーサーとしての確立を目指す。また、拡散係数など試算していた値についても、復元された流入変遷史より再計算しより確かな値を導く。これらの分析結果は、最終的にはトレーサーとしての確実性を上げるのみならず、黒潮(北赤道海流)の流速や、成層圏でのエアロゾル滞留時間も導くためのツールとして利用できる可能性があるので、新たな研究にも繋がるような視点から解析を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究で用いる分析法は、目的核種を他のマトリックスから完全に単離することが必要である。また、クロスコンタミネーションなどの汚染を避けるために、使用品の多くはディズポーザブルな実験器具を利用している。このように、24年度と同様に試料処理に試薬類および実験器具が必要となるため、研究費の多くが物品(消耗品)費に計上されている。 その他、ウランやプルトニウム同位体測定では、国外にのみ設備されている大型装置を利用する必要や、国内では1機関しか認められていない施設を利用する必要があるため、国内外の旅費が必要となる。 必要試薬量や実験器具などの消耗品に関わる経費、また国内外旅費も見積もりに準じているため当初の申請通りに予算使用可能であることが予想される。
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