研究課題
本年は、日本海に供給される表層海水が通過する対馬海峡上にある壱岐島で採取したサンゴの年輪より、日本海への実際のU-236供給変遷を復元した。採取した試料は約1 mあり、そのうちの54 cm分を分析した。試料は1934年から2012年までの78年の歴史をとどめていた。2012年の年輪から得たU-236/U-238原子比は、昨年度測定した日本海表層海水中のU-236/U-238原子比と同一であったことから本試料は日本海に供給されたウラン同位体を保存していることが証明された。今回の分析から、U-236は1950年代前半から日本海表層に供給されはじめ、1954年にスパイク的なピークが見られた。また、1959年にもさらに大きなピークが見られ、この時に最大量供給されていたことが明らかになった。1958年に赤道太平洋で最大数の核実験が行われていたことから、これらの影響が海流により日本海に運ばれるまでに1年の遅延があると考えられる。1963年にも小さなピークはあるが、1950年代の比よりも小さかった。その後は2012年まで非常に緩やかな減少がみられたが、これはU-236の下方への拡散または表層水の混合によるものと考えられる。これらのインプットパラメータをシミュレーションで用いることが可能となり、U-236は今後日本海の海水循環を明らかにする強力なツールとして確立できた。また、海水中のU-236深度分布から、日本海北部の低層付近でU-236濃度の上昇が見られたが、深層への拡散では再現できない濃度上昇であり、表層水の沈み込みによる影響が考えられる。現在予想されている低層水の循環からは再現できない濃度分布であるため、新たな表層水沈み込みまたは低層水循環の可能性が示唆された。
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