単細胞の海洋プランクトンである浮遊性有孔虫について、生物学的種(遺伝子型)の同定と炭酸塩殻の形態の違いを評価した。特に、土佐湾の定点では約2年間の月別試料を採取し、浮遊性有孔虫と共生藻の種類や産出頻度の時系列変化を解明した。 1.浮遊性有孔虫・遺伝子型の殻形態の違い 海洋に広く分布する浮遊性有孔虫種Globorotalia truncatulinoidesから同定した5つの遺伝子型内で、殻室の成長方向に左右二型があることを解明した。この二型は生息環境によらず遺伝的に決まっていることを示唆した。一方で、殻の外形の形態的差異は寒冷域と温暖域に生息する遺伝子型の判別に用いることができ、化石試料への応用が可能となった。このように、殻はリボソーム遺伝子によって分類された遺伝子型と一致する形質と、全く異なる形質があることが示唆された。 2.浮遊性有孔虫・遺伝子型と共生藻の関係 土佐湾から採取した浮遊性有孔虫種Globigerinoides ruberには、4つの遺伝子型が確認された。これらは通年で産出するが、産出頻度が季節で異なることがわかった。いずれの個体も共生藻として渦鞭毛藻Gymnodinium beiiを細胞内に持ち、共生藻にも3つの遺伝子型が存在することがわかった。宿主(浮遊性有孔虫)と共生藻(渦鞭毛藻)の関係をみると、共生藻類の宿主特異性が低いことが示唆された。しかし、季節間では優勢となる共生藻の遺伝子型が異なり、殻の同位体組成への影響が考えられる。月別の水温・塩分・栄養塩のデータと比較しながら、宿主―共生の関係や共生藻の季節変化について結果をまとめている。一方で、共生藻の遺伝子型を蛍光プローブで識別することは難しく、他の遺伝子マーカーの開発を行う必要性が示唆され、細胞内に残存する摂餌物の検出には、室内飼育を通して浮遊性有孔虫の消化時間などを検証する必要性が示唆された。
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