最終年度は日本近海とインド洋で採集されたマグロと、湖沼で採集されたマス類の水銀同位体組成のデータ収集を継続して行った。いずれの試料から奇数の水銀同位体比に非質量依存同位体分別効果(MIF)が検出された。特に海洋魚の方が陸水魚と比較して高いMIFが検出された。これは蓄積している水銀の経路が異なっているためだと示唆される。これらの研究結果を、エジンバラで開催された国際水銀会議で発表した。 本研究課題では、生物試料中に蓄積している水銀の起源を特定するために、水銀同位体組成に着目して研究を実施た。本研究の目的の1つである高感度水銀同位体分析については、前処理方法も含めて既存の装置で達成した。しかしながら、既存装置の感度および精度の限界を知ることとなり、比較的高濃度(1ppm以上)で水銀が蓄積している生物試料しか測定できなかった。今後装置の更新及び、濃縮方法の開発を行い、微量水銀含有生物試料の水銀同位体比分析方法を確立する。 また本研究課題では、人為的に排出された水銀が大気経由で水環境に沈着し、その後メチル化することによって生物に濃縮される過程を水銀のMIFで明らかにしようとしたが、水銀のMIFは酸素のMIFと異なり、水圏環境内で発生する現象であることが実験でも確認できたため、水銀のMIFは大気由来の指標では無くて光還元反応の指標となりうるという知見を得た。光還元反応は水圏から大気圏への水銀の移動過程を示す化学反応であり、環境中の水銀動態を解明するために重要な指標と成りうる。
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