研究課題
本研究では、湖沼における浮遊細菌を介した溶存有機物の動態を、純粋分離株を用いた室内実験系により詳細に解析し、得られた知見を基に実際の環境中におけるそれらを介した湖内炭素循環メカニズムを明らかにすることを目的とした。始めに、日本の様々な湖沼および河川より浮遊細菌の分離を行ったところ、これまで難培養および未培養系統群に属する主要浮遊細菌群を多数分離・培養することに成功した。それらが環境中でどのような溶存有機物を摂取しているのかを解明するため、得られた純粋分離株を用いて栄養要求性試験を行ったところ、大部分の浮遊細菌が、糖およびアミノ酸は代謝せず炭素源として有機酸に強く依存していた。また、主要細菌群のうち2種については、それらが生息する環境において主な有機酸の供給源として腐植物質の光分解の寄与が強いのかもしくは植物プランクトンの一次生産の寄与が強いのかにより(溶存有機物の質の違い)、栄養源を巡る競争とならないよう種レベルで棲み分けていることが明らかとなった。単一炭素、窒素源および微量金属を含む最小培地を作成し浮遊細菌を培養した後に、培地中にどのような溶存有機物が新たに生成されたのかを、3次元励起蛍光スペクトル解析で調べたところ、いくつかの浮遊細菌株が陸域腐植様蛍光特性を有する溶存有機物を生成していることを明らかにした。この結果は、浮遊細菌が腐植様難分解性溶存態有機物の発生起源となり得ることを示唆していた。純粋分離株を用いてその生理生態を詳細に調べることで、これまでその実態が不明であった浮遊細菌を介した溶存有機物の取り込み分解および新たな溶存有機物の生成に関して、初めて物質レベルでその動態を明らかにした。また、得られた浮遊細菌の純粋分離株については、国内の系統保存機関に寄託し世界中の研究者が自由に使用できるよう整備した。
すべて 2012
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Environmental Microbiolog
巻: Vol. 14, No.9 ページ: 2511-2525
DOI:10.1111/j.1462-2920.2012.02815.x