研究課題/領域番号 |
23710031
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
伊藤 信靖 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究員 (70415644)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ペリレン / 堆積物 / 琵琶湖 / 風化 |
研究概要 |
平成23年度は、琵琶湖堆積物中に含まれる高濃度ペリレンの起源を推定するため、前処理法の検討および顕微鏡による観察を行った。その結果、堆積物中のペリレンは流水域に生息する菌根菌の一種、Cenococcum geophirum(Cg)の構成物に由来することが強く示唆された。以下に具体的な結果を述べる。 堆積物中に存在する高濃度ペリレンを含んだ断片を観察する上では、マトリックスの土壌由来成分と可能な限り分離しなければならない。そこで申請者は、乾燥堆積物試料を水に懸濁して超音波洗浄するとともに、40 umのナイロンメッシュを通過させることで、効率的に目的断片を採集する方法を開発した。メッシュ上に捕集された多数の黒色球体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、菌根菌の一種であるCgの菌核粒子であることが確認された。そこで、琵琶湖集水域にCgを探索に行った結果、Cgの菌核粒子を複数採集することができた。このことから、メッシュ上に捕集された黒色球体は微小なCgの菌核粒子であると断定した。 続いて、紫外光下で青色に発色する粒子を蛍光顕微鏡下で観察した。その結果、Cgの菌核粒子に特徴的な細孔構造が認められるとともに、高濃度にペリレンを含むことが顕微分光のスペクトルにより確認できた。さらに、この顕微分光システムを用いて複数の蛍光粒子のスペクトルを収集し、別途合成した試薬の蛍光スペクトルと比較・フィッティングを行った。その結果、Cgの菌核粒子に含まれるジヒドロキシペリレンキノン(DHPQ)はペリレンキノンを経由してペリレンになることが明らかになった。これらの蛍光粒子についてエネルギー分散型X線分光器(EDX)を備えたSEMで分析したところ、蛍光スペクトルから推察した元素組成と同様であった。これらのことから、琵琶湖堆積物中に含まれる高濃度ペリレンの起源はCgに由来するものと結論付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、堆積物中のペリレンを含む断片から、その起源を推定することだけを予定していた。しかしながら実際には、ペリレンの起源を推定するだけではなく、DHPQからペリレンへの段階的な変化を顕微分光等により確認できた。また、DHPQからペリレンへの変化について、菌核粒子内部の嫌気性生物の関与が小さいことも明らかになった。このことから、計画以上の進展であったと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の結果から、DHPQからペリレンへと変化する際に、菌核粒子構造中からのアルミニウムの溶脱が引き金となる可能性が示唆された。この一連の変化を明らかにするためには先ず、菌核粒子の化学構造を明らかにする必要がある。このため本年度は、種々の手法を用いて菌核粒子の化学構造について明らかにする。その結果に基づき、菌核粒子中に存在するDHPQを含めた化学物質全体が、堆積過程でどのように変化するかを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
菌核粒子の化学構造を明らかにする上では、申請者が所属する研究室では保有していないSEM/EDXの使用が不可欠である。このため、外注分析費に50万円程度の使用を計画している。また、菌核粒子の化学構造を明らかにする上では前処理も必要となることから、ガラス器具や試薬等の消耗品に50万円程度の使用を計画している。昨年度は計画よりも試薬量が少なく済み、繰り越し分が若干生じた。このため、この繰り越し分は消耗品費に充てる。さらに、サンプリングや研究成果発表のために旅費として20万円程度の使用を計画している。
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