平成23年度に開発した、堆積物試料からペリレン含有断片を採集する手法を用いて、琵琶湖堆積物中からペリレンを含有するCenococcum geohirumの菌核粒子断片を更に探索した。その中で、ペリレンを比較的高濃度に含有する断片を採集することができた。 この断片について、エネルギー分散型X線分光装置を備えた走査型電子顕微鏡(SEM/EDX)を用いて、化学的な特徴を調査した。その結果、高濃度にペリレンを含有している断片は菌核粒子に特徴的なアルミニウム(酸化アルミニウム)はほとんど含まれておらず、その代わりに共通してけい素が存在していた。珪化木のように、堆積物や土壌中に埋没した生体構造物が石英(けい酸)により結晶化する例は多い。このため、このペリレン含有断片についても同様に石英結晶が生成している可能性が示唆された。 そこで、けい素の存在量が大きいペリレン含有断片について、微小部X線結晶回折装置(μXRD)を用いて石英結晶構造の有無を調べた。その結果、断片には石英結晶に特徴的なピークは認められなかった。けい素の存在量が大きいこの断片は菌核粒子の外側由来であり、菌核粒子の外側にはけい素が豊富に含まれていることが知られている。これらのことから、ペリレンを含有する菌核粒子断片中にけい素の存在量が大きいのは、風化の過程で石英化したのではなく、菌核粒子中にもともと含まれていたけい素に由来するものと考えられた。
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