研究課題
化学物質に対する最も基本的な生体防御機構は異物代謝系である。これまでの研究により、これら異物代謝系の種差が、各動物の化学物質感受性に強く寄与することが知られている。例えば、異物代謝・第II相抱合反応において、ネコではグルクロン酸抱合、イヌではアセチル抱合およびブタでは硫酸抱合遺伝子が欠損していることが獣医学領域の研究から明らかになっており、投薬時に注意を要する。しかし、これら異物代謝系の種差に関する知見は、一部の実験動物を除くとほとんどの生物種で解明されていない。そこで本研究では、異物代謝系の中でも重要な第II相抱合反応に注目し、ピレンを蛍光標識として新たに開発した抱合体スクリーニング手法を用いることで各動物種の異物代謝系の特徴を悪鬼らかにした。 7種の両棲類および13種の魚類を対象にその抱合体スクリーニングを行った結果、現在まで報告の無い抱合体を含む複数の代謝産物が検出され、更にその組成には種間差が観察された。特に知見の少ない両生類で詳細に解析を行った結果、両生類は全代謝産物に対する硫酸抱合体の割合が大きく、更に興味深いことに脊椎動物では報告の少ないグルコース抱合体が検出された。これら抱合体の種差の原因を明らかにするため、各抱合酵素に対するカイネティックス解析をおこなった結果、代謝産物の違いは代謝酵素活性の違いに基づいていると考えられた。 一方、哺乳類の尿を用いたフィールドレベルの調査では、希少動物であるゾウやクマ、シカを含む11種から試料採集を行い、そのスクリーングを行った。興味深いことに、偶蹄類であるウシやシカで他の種と比べ数10倍のPyrene代謝産物の排泄が観察された。本研究成果は、現在まで異物代謝系に対し、極めて情報の乏しかった両棲類を含む希少生物に対し、新たな知見を提供するものであり、今後の生態リスク評価を行う上での重要な基礎になると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
~フィールド調査と試料採集~ 試料採集は、当初予定していた通りアフリカ諸国を中心に行った。H23年度はザンビア、ガーナ、南アフリカ、エチオピアの4か国に渡航し、共同研究実施体制の構築と野生げっ歯類やウシ、ヤギなどの偶蹄類の尿、血液および臓器、鳥類の臓器および土壌・大気粉塵の採集を行った。また、エジプトでは、共同研究者の協力の基、バッファローやラクダの尿に加え、特に環境汚染の激しい地域から魚類や甲殻類の試料採集を行った。アフリカ以外ではタイに渡航し、哺乳類の尿試料を採集した。これらのサンプルは既に日本に輸入し、第II相抱合体のスクリーニングを行うとともに、各動物の環境汚染に対する暴露評価を行っている。更に、これらのサンプルを用い、重金属や農薬を中心に化学分析を行い、各国に特徴的な環境汚染が進行していることを明らかにしている。一方、酸化ストレスマーカーやサイトカインなどの環境汚染物質に対するバイオマーカーは現在解析中である。当該研究では、各国からの試料採集が最も難関であると想定していたため本年度のフィールド調査および試料採集の達成度は順調といえる。~各動物の異物代謝系の種差の解析~ 第II相抱合反応を用いた異物代謝系の種差の解明では、上記フィールドより得られた各種哺乳動物に加え、鳥類や魚類、両生類、貝類、甲殻類も含め解析を行った。系統分類上、代表的な生物種を既に30種以上比較することが可能となっており、各生物種特有の異物代謝反応が観察されている。更に、知見が極めて少ない両生類や魚類において、現在まで報告のない抱合体を本研究で初めて検出したこともあり、抱合反応の種差に関するスクリーニングは計画通り進行している。一方、H23年度に計画していたメンブレンベクシルを持いた各種抱合体によるトランスポーター活性化能の解明については、新規抱合体の分取・精製を行っているため、現在解析中である。
平成23年度に引き続き、平成24年度も可能な限りサンプル採集を行う。得られた各試料について引き続き化学分析と環境汚染バイオマーカーの解析、異物代謝系の解析を行う。平成23年度と平成24年度の調査によって得られた各種野生動物のデータセットは、極めて多変量になると予想される。土壌や底質、水質の環境データも併せて、多変量解析やGISを用いたマッピングとシミュレートを行い、野生動物への影響評価、環境保全に向けたインフォマティクスの構築を行う。一方、異物代謝系の種差を明らかにするため、発現メンブレンベシクルを用いた各種抱合体のトランスポーター活性能の解析を行う。抱合体は、その種類によりトランスポーター活性能が異なり、その排泄速度が異なることが知られている。そこで、本研究では、代表的な生体外異物のATP-binding casssette (ABC)トランスポーターであるMRPやBCRPの発現メンブレンベシクルを用いた解析を行うことで、本研究により初めて構造が明らかにされた抱合体を含む、各種抱合体の排泄速度を数値化する。これを基に、抱合体生成パターンと併せ、環境化学物質排泄能の動物種差を明らかにする。異物代謝系に加え、環境化学物質レセプターも併せて解析する事で、環境化学物質に対する高感受性動物のデータベースを構築する予定である。これらのデータセットを基に、高汚染地域に高リスク動物種生息するような、潜在的に化学物質が起因する疾患頻度が高いケミカルハザード地域の予測を行う予定である。特に、H23年度に明らかに出来なかった以下の2点について研究を推進する予定である。
H23年度は未使用額として377,589円発生し、次年度に繰り越すこととなった。主な理由として、野生動物サンプリング時の人件費の節約が挙げられる。繰り越された予算は、H24年度の試料採集や消耗品購入のために用いる予定である。 H23年度に引き続き、H24年度は主なフィールドであるアフリカ諸国への渡航費(ザンビア共和国25万円、南アフリカ共和国20万円;それぞれの国における3週間の滞在費20万円)を計上する。試料採集には、現地スタッフへ協力が必要不可欠なため、謝金代として総額60万円予定している。 第II相抱合酵素のスクリーニング調査は継続するため、それに必要な固相カートリッジ等の消耗品費を計上する。更に、第II相抱合体によるトランスポーター活性化能を比較するため、メンブレンベシクルを用いた実験を計画しているため、それに伴う消耗品費を計上する。更に、学会参加や研究打ち合わせのための旅費も計上する。
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