研究課題
エステル結合やアミド結合を構造中に含む殺虫剤は、その多くが体内で加水分解されて解毒される。しかし、殺虫剤の毒性評価に用いる実験動物とヒト間では加水分解に関わる薬物代謝酵素の分子種数や発現組織の分布が大きく異なっており、各々の酵素に関しても代謝活性や基質選択性が異なる可能性が大きい。そこで本研究では、ヒトでの安全性をより正確に評価するために、遺伝子組換えヒト加水分解酵素を用いて殺虫剤の加水分解的解毒代謝に関わっている酵素種を同定し、その酵素機能を解析して、ヒトと実験動物における加水分解的薬物代謝の種差を明らかにすることを目的とする。まず、ヒト肝臓で発現している種々のエステラーゼおよびアミダーゼ遺伝子を、cDNAライブラリーを鋳型としてPCR法により単離した。大腸菌発現系では多くの遺伝子組換え酵素が活性体として得られず、得られても極微量であったため、バキュロウィルス―昆虫培養細胞発現系を用いて遺伝子組換え酵素を調製し、精製した。その後、エステル結合やアミド結合を構造中に含む種々の殺虫剤を遺伝子組換え酵素に対してスクリーニングを行った。その結果、これまでに報告されていない3種の新規のピレスロイド系殺虫剤の加水分解酵素を発見した。この新規酵素の加水分解能はピレスロイド系殺虫剤の立体構造に大きく左右されることが判明した。また、新規酵素は低濃度のピレスロイド系殺虫剤を加水分解することが可能であり、ヒトでの効率的な代謝分解に大きく寄与すると考えられる。
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