研究概要 |
平成23-25年度にかけて、北海道、岡山県、関東5都県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県)を除く、全国40府県にて、古タイヤの水溜りに発生するヤブカ類にターゲットを絞り、幼虫採集を行った。採集を行わなかった都道府県に関しては、分布域から外れている、悪天候、先行研究が多数あるなどの理由によるものである。国道沿いに放置されている古タイヤから、魚用網を用いて、5回すくうことにより幼虫を採集した。同時に全古タイヤ数、水の溜まっている古タイヤ数、幼虫の認められた古タイヤ数、GPS情報、都市化の程度を記録した。 青森県から沖縄県にかけて323地点で16,805個の古タイヤが認められ、内1,259個のタイヤから幼虫を採集した。947個(75.2%)の古タイヤに水が溜まっており、253個(20.1%)から蚊幼虫が発生していた。採集された蚊は、7属8種で、優占種はヒトスジシマカとヤマトヤブカであった。ヒトスジシマカに関しては、これまで青森県八戸市からの採集記録が最北である。本調査では、確認されなかった。優占種2種は、日本全国から採集されたが、ヒトスジシマカは西日本で出現頻度および密度が高い傾向があり、ヤマトヤブカは東日本で高い傾向がみられた。ヒトスジシマカは農村部から都市部にかけて広く採集された。ヤマトヤブカも同様であった。1970年代に日本から絶滅したネッタイシマカは、採集されなかった。上記の結果は、年が変わっても同じであった。 ヒトスジシマカとヤマトヤブカは両種ともアルボウイルス感染症の媒介蚊としてよく知られ、前者はデング熱やチクングニア熱、後者はウエストナイル熱の媒介蚊である。現在、日本での流行はないが、毎年輸入例はあり(デング熱)、人為的環境に普通に発生していることを考慮すると、本邦で流行の可能性は否定できない。今回、得られた分布情報をこれら感染症対策に生かしたい。
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