従来の環境経済学の多くの文献では、自然環境には『利用価値』だけなく、それらを訪問等で利用せずとも認める価値である『非利用価値』も有すると述べられている。しかし自然環境が持つ異なる価値である利用価値と非利用価値を“分離”して推定する研究はこれまで多くは行われていない。 また近年、環境評価の分野では顕示選好データから個人の選好を推定していくクーン・タッカー・モデル(KT)を適用した研究事例が国内外で増えつつある。このモデルの特筆すべき点としては明確なミクロ経済学的背景を有するだけでなく、事前に特定化する効用関数の関数型次第では環境変化に関する非利用価値を推計できる可能性があることである。しかしHerriges et al.(2004)は顕示選好データのみからKTによって非利用価値を導出することの脆弱性を示している。 そこで本研究では北海道の自然公園を対象として、顕示選好法であるKTと表明選好法である仮想評価法(CVM)を組み合わせることにより、自然環境保全政策に対する支払意志額から非利用価値を分離して推定することを試みた。そのため本研究では北海道東部の居住者に地域内の自然公園(大雪山国立公園、釧路湿原国立公園、阿寒国立公園、知床国立公園等)への平成24年1年間における訪問回数をたずねるアンケートをインターネット調査により実施した。さらにこの調査では回答者にいくつかの自然公園で仮想的な自然環境保全政策を提案し、その政策に対する支払意志額をたずねるCVMも同時に実施した。 この調査データにもとづいたKTとCVMの推定結果から北海道の一般市民は近隣の自然公園に対して利用価値だけでなく非利用価値を一定程度認めていることが示された。しかしKTによって支払意志額全体から分離して推計された非利用価値とCVMから導出されたそれが大きく異なる等、いくつかの点で今後の課題が残されることとなった。
|