本研究は、干潟再生案や再生事業に注目し、「再生」に関して異なるステークホルダーが、どのようにそのベネフィットとリスクを理由づけ、言説を造り上げているのかを調査した。調査地は、干潟再生の先駆的な試みが行われる英虞湾、干潟再生の議論が長期にわたって続いている諫早湾、海外では、温暖化対策として近年干潟再生事業を進めているイギリス、干潟再生を1980年代から行っているオランダ、干潟再生事業と都市化による干潟開発が同時に進むマレーシアであった。データの中核は、再生事業に関する情報収集と内容分析(紙媒体、音声、動画など、様々なメディア)、及びインタビューであった。 本研究を通じ、一見、雑多な印象を受ける様々な意見も、その人の事業への賛成・反対の立場に関わらず、以下の5つの中心的な言説に分類可能なことが分かった。それらは「再生行為の意義」、「喪失の経験と不安」、「公正さの担保」、「未来への展望」、「対立の打破(和解の言説)」である。これら抽出された5つの要素は、合意形成の場で注意深く拾い上げ、理解を深めるべき項目となり得る。又、「再生行為の意義」の認識については一つの意見の中に重層性が見られ、それらには「その場所の価値」に関する認識、「再生行為自体」への認識、「長期計画の立案」への認識、「変化の享受」への認識等の要素が影響をしていることが分かった。 研究の最終年度においては、5つのケース・スタディーサイトから収集されたデータ整理と執筆が行われた。現在、査読中の論文も含め、今後も本研究のデータを広く分かち合っていくと同時に、より発展・深化させた形の研究活動を展開していくことにより、将来の干潟再生・自然再生事業の意思決定と環境コミュニケーションに貢献していければ幸いである。
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