研究課題/領域番号 |
23710067
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
郷 梨江香 新潟大学, 医歯学系, 特任助教 (40584769)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 放射線発がん / 発がん母体細胞 |
研究概要 |
本研究は、放射線発がんの発がん母体細胞が、未分化細胞あるいは分化細胞由来であるのかを明らかにすることを目的としている。そこで、マウスの胸腺リンパ腫発症における、放射線照射の標的細胞・発がん母体細胞の同定とその性質について解析を行った。がん抑制遺伝子Bcl11bの遺伝子改変マウスを作製し、放射線3Gyを1回全身照射した後、マウスの胸腺細胞に見られる変化を観察した。解析に用いたLck-Cre;Bcl11b-flox/+、CD4-Cre;Bcl11b-flox/+の2種類の遺伝子改変マウスは、それぞれ胸腺内にある特定の分化段階の細胞からのみBcl11bヘテロ遺伝子型となる。それらのマウスについて胸腺リンパ腫の発症の有無と前がん細胞である異常増殖細胞の出現について調べた。放射線照射後300日までに、Lck-Cre;Bcl11b-flox/+マウス(胸腺DN2細胞以降でBcl11bヘテロ遺伝子型となる)の5頭中4頭で胸腺リンパ腫が発症した。つまり骨髄の未分化細胞ではなく、胸腺内に発がん母体となる細胞が存在することが考えられた。さらに、Lck-Cre;Bcl11b-flox/+マウスにおいて、放射線照射後60日で胸腺細胞の解析を行うと、クローナル増殖する前がん細胞の存在が示された。この前がん細胞の特徴について解析を行い、前がん細胞はTCRβ発現の高い分化型の細胞であることが明らかとなった。一方、Lck-Cre;Bcl11b-flox/+マウスよりさらに分化の進んだ胸腺DP細胞からBcl11bヘテロとなるCD4cre;Bcl11b-flox/+マウスでは、前がん細胞は出現しなかった。今回の結果は、未分化な骨髄細胞ではなく、胸腺内の分化細胞が胸腺リンパ腫の発がん母体細胞となることを示し、胸腺内細胞が放射線のターゲットとなる可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画は、主にBcl11b遺伝子改変マウスにおける放射線照射の標的細胞、発がん母体細胞の同定であった。Bcl11b遺伝子改変マウスの作製および解析は、当初の計画どおり進めることができた。放射線誘発の発がん実験も同時に行い、一定の成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
放射線照射後Bcl11b遺伝子改変マウスの発がん実験から、胸腺内分化細胞が発がん母体細胞であると考えられた。しかし、今回の解析結果からは、ある特定の分化段階の胸腺細胞が発がん母体であると断定はできなかった。今後さらに詳細な解析を行い、発がん母体細胞を明らかにする。発がん母体となる胸腺細胞は、Bcl11b遺伝子の片アレル欠失により何らかの影響を受けていることが考えられる。Bcl11b遺伝子欠失が胸腺細胞に与える影響については以前より解析を進めており、放射線を照射したBcl11b遺伝子改変マウスの胸腺細胞では、細胞周期停止に異常が生じるという結果が得られている。通常、放射線照射により損傷を受けた細胞は細胞周期が停止する。この実験結果は予備実験の段階で得られたものであるが、細胞周期の異常は胸腺リンパ腫の発症を促進する因子になると考えられるため、さらに詳しく解析を行う予定である。今まで行った解析で使用しているBcl11b遺伝子改変マウスに放射線照射を行い、胸腺内のどの分化段階の細胞に細胞周期の異常が見られるかについて調べる。また、その異常が生じる機構や関与する因子についても明らかにする予定である。さらに、同定した発がん母体細胞から実際に胸腺リンパ腫を発症するかどうかについても調べる予定である。これらの解析を進めることで、放射線照射の標的細胞、発がん母体細胞を詳細に明らかにすることができると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究を遂行するために、FCM解析、PCR法による解析を行う予定である。それらの解析に使用する、抗体(胸腺T細胞表面抗体、細胞内タンパク質検出用抗体など)、一般試薬(FCM解析用試薬、DNAまたはRNA抽出用試薬など)、実験器具類などの消耗品の購入に使用する。また、本研究の成果を日本癌学会や日本放射線影響学会等で発表するための費用に使用する。
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